綾菜の返信はおよそ次のようなものであった。

「馨って優しいよね。でも優し過ぎるから、相手を却って傷つけてしまうときがある」

 私が浮気したときだって、と綾菜はいう。

 確かに綾菜が男とホテルから出た現場に馨が遭遇したとき、馨は顔色を一瞬変えたものの、

──どうもご無沙汰してます。

 軽く会釈をし、怒りも出さずにさり気なくその場を離れたのだが、そのあと綾菜からの謝罪はすべて受け流した。

「あのときはうちも若かったから、もうちょいやりようもあったんやろけどな」

「でも、あのとき馨には怒ってほしかった」

 内心すごく腹が立っているはずなのに、表にあらわさなかったのが綾菜にはかなりこたえたらしかった。