翌朝。

 馨はナスチャを成田空港まで電車で送り、

「日本で働く」

 そう言い置いて、ナスチャはゲートの奥へ消えた。

 少しぼんやりとしながら、電車で横浜駅まで来ると時分どきでもあったので、売店で崎陽軒のシウマイ弁当を買って帰ろうとしたとき、

「…馨、だよね?」

 声がしたので向き直ると、スーツ姿の女性がいる。

「…もしかして、綾菜?」

 彼女がメガネを外すと間違いなく、昔の恋人であった森綾菜である。

「馨はメガネしててもイケメンだからすぐ分かる」

「…お、おぅ」

 まだ京都にいた頃の記憶が蘇ってきた。

「…まだ、怒ってる…よね?」

 だってあのとき私が浮気したんだから、と綾菜は、バツの悪そうな表情を浮かべた。