滞在期限が近づいた頃、ナスチャは馨と写真が撮りたいとせがんできたので、馨は庭に出て、おそらく前の住人が植えたであろう古い枝垂れ(もみじ)の木の下で、ツーショットの写真を撮った。

 プリンタで写真にしてナスチャに渡すと、

「あなたは優しいです」

 腕を回してくる。

 もうこの時期になると、文化が違うと恋愛の仕方も違うのかも知れない…と馨は感じたものか、恋愛に積極的なところはよく理解できた。

 明日の朝いよいよ帰国という夜、馨とナスチャ、そして母親の光代は三人で稲荷寿司を作って食べた。

 ベジタリアンのナスチャのために油揚を砂糖と醤油で甘辛く()き、胡麻や人参、ひじきを混ぜた五目の酢飯を詰めてゆく。

 ナスチャは稲荷寿司を知らなかったらしく、はじめこそ少しこわごわ詰めていたが、最後の方になると慣れて来たのか、大きめの物も作った。

 光代は明るく積極的なナスチャを気に入ったらしく、

「あなたみたいな子が馨の奥さんになってくれたら、私も気にしないであの世に行けるんだけど」

 などと笑い話を交えられるようになっていた。