だが。
馨は異性から好かれていることを素直に喜べないでいる。
別にナスチャがタイプでない訳ではない。
「あれだけの別嬪さんやもんな…」
男冥利ではないか。
しかしながら、近頃目が衰え始めている母親の件もあるし、前より減り始めた仕事の件もある。
毎晩、ナスチャは馨の部屋へ来ては、
「今度はニューヨークを案内します」
邪気や淀みの混ざっていない、無垢な笑顔で語ったり、互いの食べ物の好みの話やら、いつかは日本で働くことを目指していることなど、他愛ないかも知れないが案外重要なことを聞かせてもらったりもする。
ナスチャは最後は必ず、
「カオル、I love you」
とキスをして部屋を出る。
あんなに真っ直ぐ気持ちをぶつけられては、ナスチャに迷惑もかけられない。
馨は結論を出しあぐねていた。