次の日馨は、書店で何冊か日本語のドリルを買ってきてナスチャに渡し、

「見たるから解いてみ」

 こうして触れ合うことで少しはナスチャを理解しなければならない…と馨は考えていたのかも分からない。

 ナスチャは素直に日本語のドリルを解き始めた。

「日本語、むずかしい」

 実のところ、ナスチャも左利きである。

 ここでナスチャは、馨が実は真剣にナスチャと向き合って、根気強く物事を教えてくれる、根が親身な性分であることに気づいたらしい。

 文法が分からないときには単語を英語に変え、同じ意味の英文と並べて見せてから、

「ここがこの位置に来るねん」

 どこまでも冷静で、変に怒鳴ることはない。

「まぁうちが怒鳴るってのは、虫の居所が悪いときぐらいやろな」

 ナスチャはすっかり、馨に夢中になっていたらしかった。