中野ブロードウェイは土曜日だけに混雑していた。

 それでも。

「…私、負けない!」

 まるで何かのアニメのセリフのような一言を残すと、人羣(ひとむら)を掻き分けるように、グッズを探しにナスチャが乗り込んでゆく。

「さながら大博打やな」

 さすがにナスチャひとりで行かせる訳にゆかなかったのであろう。

 馨は後を追って行く。

 ナスチャと馨ははぐれたままであったが、ややしばらくして、

「カオルーっ!」

 声の方へ向き直すと、両の手にワサワサと袋を携えたナスチャの勇姿があった。

「あなたスバラシイ、こんなWonderlandあるの知ってた」

 ナスチャからすると、夢のような場所であるらしい。

「カオルの好きなCharacterは…ミクさん?」

 カオルの真っ白なリュックに下がっている初音ミクのぬいぐるみを、ナスチャは見逃さなかった。

「カオル、あなたミクさん知ってる」

 ナスチャは馨のリュックの初音ミクのぬいぐるみを両のたなごころで包むように手にしながら、

「ナスチャも、ミクさん好きです」

 とのみ小さく日本語を発した。

 初めて、馨はナスチャと好みが一致したような気がした。