「その必要はない。あのハンカチは私が拾って母娘に渡しておいた」

やっぱりこの人は、警察じゃなくて死神なんじゃないだろうか。
顔をまじまじ見ても、やっぱりなんの感情も見あたらなかった。

「西上さんのその眼鏡って、伊達眼鏡ですよね?」

「よく解ったな。残念ながらすこぶる視力がいい」

西上さんが眼鏡をくいっと上にずらすと、切れ長の静かな目がはっきりと見えた。

「綺麗に映りこんでたし、歪んでなかったし。私のも伊達眼鏡だけど、コーティングレンズだからバレづらいんです」

「君はずいぶん詳しいんだな」

私は持っていた眼鏡のツルを開いて、「ほら」とレンズを西上さんに見せた。

「ファッションにはちょっとうるさいんですよ。これ、お仕事で使ってください。私はもういらない」

西上さんの胸ポケットに眼鏡を刺しいれた。

「眼鏡をかけながら胸ポケットにも眼鏡をいれてる感じ、変態感すごいですよ。しかも制服女子高生とスーツでお出かけ」

西上さんは慌てて胸の眼鏡を隠すように手で覆って、周囲をきょろきょろ見回した。
初めてみる死神の動揺だ。
ちょっと得した気分を味わった。

そうだ、ルール通り終えないといけない。

「パンプス買ってから警察署行きますね」

「ま、待ちなさい!」