頭の中が真っ白になった。
――なんで死神が……、警察?
肩から一気に力が抜けて、むくむくとくすぐったいような感情がわいてきた。
いろいろなことを頭に浮かべていたのにその泡で頭がいっぱいになって、思わず「ぷっ」と吹き出した。
「ニシガミって、なにその紛らわしい名前」
「そこまで珍しい苗字ではない。ある調査では全国におよそ4000人以上いるそうだ」
生真面目にかえす西上さんは、やっぱり死神が似合う。
「私、逮捕とかされるんですか?」
「君は犯罪は犯していない。ただ、署で話は聞かせてもらう。君が望むならカウンセリングを受けることも可能だ」
“署で話”という部分で、グレーのスチールデスクにカツ丼が出てくる映像が浮かんだ。
あれはドラマの中だけの話なのだろうか。
面倒くさそうだけど仕方がない。
――でも死神に許してもらえたんだ、私。
「私のことは、いつから……?」
「サイバーポリスと連携して君を監視していた。二度とあんなサイトは利用せず、こんな危険なことはやめなさい。それから、これは君のだろ」
西上さんが差し出したのは私の伊達眼鏡だった。
「男が持っていた」
私はお礼を言って受け取り、記憶を遡った。
ナンパ男に眼鏡を取られた後、西上さんが男から眼鏡を取り戻してくれたんだ。
その光景は胸がすくもので、ちょっと実際に見たかったと思った。
そのまま記憶を遡りつづけると、チクりと胸が痛む場所があった。
「あの私、ハチ公でハンカチ探してきていいですか?」