男が取り上げた眼鏡をかざして口を曲げている。

どうでもいい。

石ころ以下の存在に注意を向けたらいけない。
マスクと同じ、顔を覆うためだけの伊達眼鏡だ。
ただの安物だし、今日死ぬならもう必要もない。
一年近く、どこに行く時もかけ続けていたせいか、眼鏡のない視界は新鮮だった。

「ほら、返してあげるから止まって」

どこまで頭が悪いんだろう。
お前窃盗だし、そんな眼鏡どうでもいいんだよ。

「お、おい。眼鏡どうすんだよー」

歩く速度を上げ、わざと人ごみの濃い方向へ進むと視界からゴミが消えた。