ハチ公側、ツタヤ側、それぞれの人の塊が交差点の中央でぶつかる。
スマートウォッチの振動が止まらない。
顔と顔の爆発から抜け、少し空が広くなって、パーソナルスペースができた。

斜め上から声がふってきた。

「マスクしてても顔の小ささバレバレ。顔隠してちゃもったいないよキミ」

二重線の幅が不自然に広い大きな目が私を見おろしている。
ひょろっとした二十代半ばくらいの男だ。

鼻が高くアゴの尖った彫りが深い顔。
整っているけど、目の空虚さのせいか、内面の問題か、いやらしさが漂う。
綺麗にそろえてるヒゲもナルシスト感がすごい。
初見でスマートウォッチが振動した。

――死へのご協力ありがとう。

「ねえ、なんか返事してよ」

この男に、最大の拒否、最大の否定をとどけたい。

最も効果的な方法は完全なる無視だ。
お前など道端の石ころほどの価値もない。
不快じゃないだけ石ころの勝利だ。
視界に入るなゴミくず。

「なんだよ冷てぇな。待てって」

視野に突然手が伸びてくる。
次の瞬間、両耳の上が擦れる感覚があって、視界が開けた。

「おお、やっぱ美少女」