もう、ぜんぶどうでもいい。
絶え間なく落ちてくる紙吹雪みたいな雪を見ていたら、急に眠くなってきた。

不思議だ。というか、皮肉だ。

コートとスーツにじわじわと雪のつめたさがしみてくる。
けれど、それより眠気が優っている。

ああ、なんだか頭も身体もふわふわして、気持ちがいい。
いっそこのまま─。

その時だった。

ぼくのほおに、かすかに生暖かい風があたった。
なんだこれ……生き物? 犬でもいるのか?

どうしよう……。そういえば、犬って冬眠するんだろうか。
飼ったことがないからわからない。いや、それより、どうする、この状況。
ぼくは、死んだふりをして、犬が去ってくれるのを待った。
けれど、去る気配どころか、どんどん生暖かい息は近づいてくる。
そうしている間にも、背中の雪がコートとスーツに染みてくる。
もうだめだ。限界だ。
ぼくは、そっと目を開けた。

が、そこにいたのは犬なんかじゃなかった。

ぼくのすぐ目の前にあったのは、人間の顔だ。しかも、女の子の。

「うおおお!」

驚きすぎて、うなりごえみたいな叫び声をあげ、ぼくは跳び起きた。
ぼくの声に驚いて女の子は大きなアクションであとずさった。