そこは、ぼくが知っている町とは別世界だった。
すべてがしんと静まり返り、動いて動いているのは降り続く雪だけ。
人が眠り、すべての活動をやめると、
街はこんなに透明になるのかとぼくは茫然とした。

街ごと死んでしまったような、どこまでもからっぽな静けさ。
街は人の延長線上にある生き物なんだと、今さら気づく。

けれど、この静けさが、ぼくは嫌いじゃない。
ぼくを追い詰めるすべてが止まった世界で、大きく息を吸った。

こんなふうに深呼吸をするのは、いつ以来だろう。
恐ろしいほどの静けさが、ぼくをそっと抱きしめる。

ぼくは、交差点の真ん中に立ち止まり、空を見上げた。
家を出たときは止んでいた雪が、また降り始めた。

サンドバッグのようにぼくに罵詈雑言を浴びせた上司も、
サンドバッグ役が自分でないことにほっとしていた先輩たちも、
今頃スヤスヤと眠っている頃だろう。
まるで、ぼくの眠気まで奪い取るように。