どうぞ、とうながされたぼくは、仕方なく歩き出した。
これからまた、地獄の日々が始まる。
楽しみもない、ただ罵倒されるだけの日々。
ぼくは何のために生きているんだろう。
鉛のように重い体を引きずりながら、トラックの横を通り過ぎる時、
いや、トラックの荷台にゴロンと転がされた桜の大木が目に入った。
その瞬間、ぼくは雷に打たれたようにその場から動けなくなった。
根元から折れた、桜の大木。
その太い枝に刻まれた文字。
それは、「七」の文字と草かんむりだった。
「え……七葉?」
混乱した頭のまま、立ち尽くすぼく。
ぼくがぼんやりしている間に、トラックが去っていく。
「ありがと」
七葉の笑い声が、どこからか聞こえた気がした。
どのくらい、そこに立ち尽くしていただろう。
強い風が吹いて、自分の顔が涙で濡れていることに気づいた。
ぼくは我に返り、涙も拭かずにスマホを取り出した。
そして、検索窓に「退職届 書き方」と打ち込んだ。
そして、その内容をざっと頭に入れると、電源を落とした。
とりあえず、コンビニでもいくか。
歩き出したぼくの身体は、信じられないほど軽い。
今なら、どこまでも歩いて行けそうな気がした。