公園のベンチでは、久しぶりの日差しを楽しむように、
二人組のO Lさんが弁当箱を広げて笑っている。
お母さんと手をつないだ小さな子ども。
ゆっくりと並んで歩く老夫婦。
誰もが春を喜んでいる。
この世界でぼくだけ、冬に取り残されているみたいだ。
足を引きずるように歩いていたぼくは、公園の出口で止められた。
「すみません、少々お待ちください」
警備員が、オレンジの警棒で通せんぼする。
その後ろで、桜の大木がクレーンに吊り下げられていた。
「これ、折れちゃったのかい」
後ろからきたおじいさんが、警備員に話しかけた。
「ええ。今年は雪が多かったんで」
「まあ、この様子じゃ、もともと幹の中が腐ってたみたいだけどな」
おじいさんが訳知り顔で大木を見上げる。
大木が、トラックの荷台に乗せられたのを確認すると、
警備員はうやうやしく頭を下げた
「ご迷惑をおかけしました」
ご迷惑だなんて。
いっそのこと、ずっと通せんぼをしてくれていたっていいのに。
そうしたら、会社に行かなくても済むのに。