春の匂いに鼻をくすぐられ、ぼくは目を覚ました。
こんなに清々しい気分で目覚めるのはいつ以来だろう。


けれど、そんな心地よい目覚めも、
スマホの電源を入れた途端、霧のように一瞬で消えた。

画面に次々と現れる、罵詈雑言のメッセージ。
さっきまでの清々しい気持ちとは
正反対のベクトルの感情に、一瞬で溺れそうになる。

会社に行きたくない。永遠に。
けれど、ぼくが会社に行くまで、
罵詈雑言のメッセージは追いかけてくるだろう。

ぼくは仕方なくスーツを着て街へ出た。
町は、春の匂いに満ち溢れていた。

会社の前までたどり着いたものの、
どうしてもビルの入り口に入ることができない。

そうだ、先に、七葉を見つけなきゃ。
「見つけて」って言ったのは、七葉なんだから。

ぼくは頼まれたから、仕方なく行くだけだ。
約束は守らなきゃ。
そう自分に言い聞かせて回れ右をすると、
七葉と過ごしたカフェへ向かった。