「やめなよ、こういうの。ちょっと引く」

今さっきまで、あんなに楽しかったのに。

七葉どうしてこんな、わざとらしいことばっかりするんだろう。

ぼくは、理解不能な七葉の行動に、ちょっと腹を立てていた。
真っ白いハンカチを汚されたような、そんな気がして。

「ごめん」

不機嫌になったぼくに、七葉はしぼんだ風船みたいにシュンとなった。

こういう時、どうしたらいいのかわからない。
ぼくはいつも、不機嫌を受ける側だったから。

気まずい沈黙に耐えきれず、ぼくはコートを手に取った。

じゃあ、とドアに手をかけた時だった。

「幸樹」

名前を呼ばれて振り返ると、七葉の笑顔があった。

「じゃあね」

うん、と曖昧にうなずいたたぼくは、きちんと笑えていただろうか。

ぼくは、七葉に甘えていたのかもしれない。