「七葉」

彼女を落ち着かせようと、名前を呼んだけど、ぼくの声は震えていた。

顔を上げた七葉は、主人に名前を呼ばれたわんこが
尻尾を振ってるみたいな笑顔をぼくに向けた。

無垢すぎて、感情がないような顔だ。

そう思ったぼくが、七葉にゆっくりと近づいた時だった。

彼女は赤いパーカーの袖をまくりあげて、
自分の左腕の内側にナイフをすっ、すっと走らせた。

真っ白な腕に真っ赤な血が文字になって浮かび上がる。

「七」の文字と、「葉」の草かんむりだ。

ぼくは一瞬だけ、その腕の白さと血の鮮烈さに見とれた。
けれど、それは誓って一瞬だけだ。

七葉が草冠の下の部分を描く前にナイフを取り上げ、
そばにあったペーパーナプキンで傷口を押さえた。