「うち、ここだから」

残念。ここでお別れなんて。

「冬眠から覚めたら、見つけてね」

そう言ってぼくを見上げる目に、涙がふくらんでいる。

「泣くことないでしょ」

そうだけど、と口をとがらせ、彼女は口をつぐんだ。

そして、「あ」と何かを思いつくと、厨房に走っていった。

何かを探している音がする。

「何してんの。せっかく片付けたのに」

厨房をのぞき込んだぼくの目に飛び込んできたのは、ナイフを手にした七葉だった。
川に捨てたはずの、ぼくのナイフ。