ぼくだって、昔から眠るのが下手だったわけじゃない。
と、思う。
でも、何も考えずに眠れた最後の夜がいつだったのか、
もう思い出すこともできない。

そしてついにぼくはこの冬、眠れなくなった。

生き物には、二種類ある。冬眠する種と、しない種だ。

気候変動の影響で地球上の平均気温が軒並み下がり、
全人類が冬眠するようになって、もう半世紀経つ。

ぼくが生まれたときにはとっくに、
人類は「冬眠する種」になっていた。
しんと静まり返った雪と氷の室のなかで、
すべての人類は仮死状態となり、春を待つ。

人間が眠る。
それは、本当の意味でエコロジーだと昔、えらいひとが言っていた。

要するに、人間は地球を汚すだけの存在なんだ。
そう、ぼくら人間は、静かに眠っているべきなのだ。
地球のために自然を汚さないように。
そしてなにより、誰かを傷つけないように。