「じゃあ、もし死んだとして。生まれ変わったら、幸樹は何になりたい?」

「わかんないよ」

「ちゃんと考えてよ」

「え……うーん」

「わたしは人間がいいな。幸樹も人間にしなよ」

「ぼくはいいよ、もう。飽きた」

「えー、もったいないよ」

七葉はカップを置き、形のいい口を尖らせた。
自分のかわいさをよくわかっている子の表情。
実際、七葉はかわいい。

「人間に生まれ変わって、何するの」

「歩く。見つかるまで歩きたい」

何を、とぼくが聞く前に、彼女が続けた。

「自分にぴったりの場所を見つけるの」

「そんなの、別に……」

今から見つければいいじゃん。
そう言おうとした自分に気づいて、ぼくは口をつぐんだ。

七葉も、ぼくと同じだ。
どこにも行けないんだ。

彼女とぼくの唯一の違いは、来世に望みを託していることだろう。

残り少なくなったカップの底をじっと見つめている彼女に、ぼくは小さくつぶやいた。

「見つかるといいね」

ぼくの声は、風で葉がこすれ合う音のような、ささやき声みたいな音量だったのに。

七葉はすっと顔を上げ、優しく微笑んだ。