「そこ、座ってて」

偉そうにそう言ったくせに、七葉はコーヒーの淹れ方を知らないらしい。まあ、ホール係だから、仕方ないか。

「ぼくがやるよ」

昔から、コーヒーを淹れるのは得意なのだ。
ぼくにも得意なことがあったなんて、今の今まで忘れていたけど。

お湯を沸かしている間に、ドリッパーに紙フィルターを広げ、粉を入れる。

ポットに移したお湯を注意深く、そして細く注ぐと、
コーヒーの粉は水を含んでふっくらと膨れた。
まるでハンバーグみたいだ。
覗き込んでいた七葉が目を見開く。

「いやいや、そこまで珍しくないでしょ?」

自分でそう言いながらも、悪い気はしなかい。

ぽた、ぽた、ぽた。
コーヒーのしずくがガラスのサーバーに落ちてゆく。

窓の外では、雪がさっきより激しく降っている。
温かい部屋のなかに、コーヒーの香りが満ちていく。