彼女は街の中心部に向かって歩いていった。
まずい。このまま歩いて行ったら、うちの会社のビルに着いてしまう。

会社の入っているビルが近づくにつれて、動悸が激しくなる。
どうしよう。足がうまく動かない。

しかし、会社のビルの手前の交差点に差し掛かると、彼女は右に曲がっていった。

よかった。

ずっと先を行く彼女を追いかけていくと、赤いパーカーは一軒のカフェに入っていった。

思い出した。あの子、公園の横のカフェでバイトしてる子だ。

「ねえ、勝手に入っちゃっていいの?」

「うん。寒いから、早く入って」

「失礼、しまーす……」

彼女に続いて、恐る恐る店に入る。
その間にも、彼女は灯りと暖房をつけていく。

「コーヒー、飲もうよ。えーと、名前は?」

彼女がぼくをじっと見た。答えるまで待つつもりらしい。

「……コウキだよ。幸せに樹って書いて、幸樹」

すると、彼女は「ナナハ」と自分を指さした。

「七枚の葉で、七葉」

ナナハ、と復唱したぼくに、七葉はふわりと笑いかけた。