「は? なにそれ」

あきれるぼくの前で、彼女はよいしょ、と欄干によじのぼった。

「いやいやいや、いいから、そういうの」

冷たく言い放つぼくを、彼女は欄干の上からじっと見つめた。

「困るんでしょ?」

「困るよ。困るけど、飛び込まれたら、もっと困る」

「なんで?」

「なんでって、死ぬでしょ」

「そうだね」と彼女がへへへ、と笑った。

いや、なんでここで笑えるの。
意味わからないし、ハート強すぎ。無理だ、こういう人。

っていうか、冬眠期に起きてること自体、そもそもヤバイ。って、ぼくもか。

めんどうなことになる前に、逃げよう。
ぼくは無言で彼女に背を向けた。

それなのに。
背中から追ってくる彼女の「ねえ」という声に、
ぼくはつい振り向いてしまったのだ。