車の通らない車道の真ん中を、彼女が走っていく。

ビルも道路も街路樹さえも沈黙した街の中に、
彼女の笑い声と、雪をかきわけるように走る音だけが響く。

この街で一番大きな川にかかる橋にたどり着くと、
彼女は思いっきりスマホを投げた。

真っ白な世界に大きな弧を描きながら、凍った川へと落ちて行くスマホ。
まるで、スローモーションを見ているみたいだ。

「ああっ!」

一歩、遅かった。
彼女に追いついたぼくは、橋の欄干から身を乗り出して、スマホを探した。

この時期、川面にはうっすらと氷が張り、その上に雪が積もっている。
スマホは雪に埋もれてしまったらしい。

なんなんだこれ。
なんで、こんなことされなきゃいけないんだ。

「は? え、ちょっとなにこれ、ちょ、意味が分かんないんだけど」