参拝が終わり、僕と樹里は鳥居の中の参道沿いに並ぶ出店をあちらこちらと覗いて歩く。
「お二人さん仲がいいね」
綿菓子を買おうかどうしようかと悩んでいる僕たちの後ろから紀夫の陽気な声が聞こえてきた。
振り向くと、ダウンジャケットにジーンズ姿の紀夫が立っている。
「石野は見た目は本当に美人だな」
樹里を見つめて、紀夫がほくそ笑んだ。
「どういう意味よ!!」
樹里がムッとする。
「ただ、惜しいことにやっぱり着物には黒髪だよ。茶髪じゃちょっとな」
樹里はいつもどおり髪を編み、胸の前に垂らす髪型をしている。
「うるさいわね。別にあんたに好かれようとは思ってないわ。わたしは隆司に気に入られればそれでいいのよ。ねえ、隆司」
樹里が僕の肩を抱く。
長身の樹里に肩を抱かれると、小柄な僕が女みたいな感じになる。
「そうだね」
曖昧な笑みを浮かべた。
「それより渡辺さんが鳥居のところで待っていると言ってたぞ」
「出店覗いてたらはぐれてしまったからずっと探していたんだ」
紀夫が鳥居に向かって歩き出す。
僕たちはその後をついて歩いた。
「どこ行ってたのよ」
鳥居のところで下を向いて心細げに待っていた渡辺さんが頬を膨らませた。
「どこって……お参りして、射的をしてたりしたら真紀の姿が見えなくなったんだ」
紀夫が唇を尖らす。
「何度も携帯に電話したのに出なかったじゃない」
渡辺さんの目が三角になる。
「携帯、家に忘れた」
紀夫は昔からよく忘れ物をする。
「馬鹿じゃないの」
渡辺さんは軽蔑したような目で紀夫を見た。
「わたしたち、これからお茶をしに行くんだけど、真紀たちもどう?」
そんな話を聞いてないけど。
「でも、こんな元旦に開いている店があるのか?」
紀夫がもっともなことを聞く。
「休日に、どこにも連れて行ってくれない薄情なカレシはいるけど、友達はいないからこの辺りを一人でブラブラすることが多いの。この前、少しお腹空いたと思って、どこか食べるところないかなと思って探していたら、小さなお店だけど、ケーキがすごく美味しい喫茶店を見つけたの。その時、マスターに聞いたらお正月もやっているって言ってたわ」
薄情なカレシでごめんね。
「行くわ」
渡辺さんがケーキと聞いて、目を輝かせる。
樹里が言っていたお店は神社から5分ほど歩き、大通り沿いを奥に入った住宅街の中にあった。
樹里の言うように4人掛けのテーブル席が一つとカウンターだけという10人も入ればいっぱいという小さなお店だった。
4人掛けのテーブルに、僕の隣に樹里が座り、向かいに紀夫と渡辺さんが座る。
「いらっしゃい。何にします?」
髭面の店主らしい人が水を置いた。
「コーヒーとケーキでいい?」
樹里がみんなに聞く。
「ケーキは何があるの?」
渡辺さんがマスターを見る。
「今日は苺のショートケーキとモンブランがあるけど」
「じゃあ、ショートケーキ」
「わたしも」
渡辺さんに樹里が同調する。
「俺はモンブランで」
「僕も」
男2人は同じものを注文した。
「飲み物はブレンドでいいかな」
マスターの問いに4人とも頷く。
「澤田君。ちょっとひどいんじゃない」
マスターがカウンターの向こうに戻ると、渡辺さんが僕を睨んだ。
「何が?」
「樹里をどこにも誘わないなんてひどくない? もちろん澤田君がそんなことできるような人ではないことは知ってるけど、付き合っている以上はちゃんとしなさいよ」
渡辺さんとは1年生の時も一緒のクラスだったから僕の性格はなんとなくわかるんだろう。
「ごめん」
僕は謝るしかない。
「いいのよ。隆司がそういう人だって分かって付き合っているんだから。ただ、ちょっと寂しかっただけよ」
樹里が寂しそうな顔をする。
「ごめん」
カノジョにこんな寂しい思いをさせるなんて僕は最低だ。
「なーんて。冗談よ。わたしは別に寂しいなんて思ったことないわ」
樹里が楽しそうに笑う。
また、芝居か。
「お二人さん仲がいいね」
綿菓子を買おうかどうしようかと悩んでいる僕たちの後ろから紀夫の陽気な声が聞こえてきた。
振り向くと、ダウンジャケットにジーンズ姿の紀夫が立っている。
「石野は見た目は本当に美人だな」
樹里を見つめて、紀夫がほくそ笑んだ。
「どういう意味よ!!」
樹里がムッとする。
「ただ、惜しいことにやっぱり着物には黒髪だよ。茶髪じゃちょっとな」
樹里はいつもどおり髪を編み、胸の前に垂らす髪型をしている。
「うるさいわね。別にあんたに好かれようとは思ってないわ。わたしは隆司に気に入られればそれでいいのよ。ねえ、隆司」
樹里が僕の肩を抱く。
長身の樹里に肩を抱かれると、小柄な僕が女みたいな感じになる。
「そうだね」
曖昧な笑みを浮かべた。
「それより渡辺さんが鳥居のところで待っていると言ってたぞ」
「出店覗いてたらはぐれてしまったからずっと探していたんだ」
紀夫が鳥居に向かって歩き出す。
僕たちはその後をついて歩いた。
「どこ行ってたのよ」
鳥居のところで下を向いて心細げに待っていた渡辺さんが頬を膨らませた。
「どこって……お参りして、射的をしてたりしたら真紀の姿が見えなくなったんだ」
紀夫が唇を尖らす。
「何度も携帯に電話したのに出なかったじゃない」
渡辺さんの目が三角になる。
「携帯、家に忘れた」
紀夫は昔からよく忘れ物をする。
「馬鹿じゃないの」
渡辺さんは軽蔑したような目で紀夫を見た。
「わたしたち、これからお茶をしに行くんだけど、真紀たちもどう?」
そんな話を聞いてないけど。
「でも、こんな元旦に開いている店があるのか?」
紀夫がもっともなことを聞く。
「休日に、どこにも連れて行ってくれない薄情なカレシはいるけど、友達はいないからこの辺りを一人でブラブラすることが多いの。この前、少しお腹空いたと思って、どこか食べるところないかなと思って探していたら、小さなお店だけど、ケーキがすごく美味しい喫茶店を見つけたの。その時、マスターに聞いたらお正月もやっているって言ってたわ」
薄情なカレシでごめんね。
「行くわ」
渡辺さんがケーキと聞いて、目を輝かせる。
樹里が言っていたお店は神社から5分ほど歩き、大通り沿いを奥に入った住宅街の中にあった。
樹里の言うように4人掛けのテーブル席が一つとカウンターだけという10人も入ればいっぱいという小さなお店だった。
4人掛けのテーブルに、僕の隣に樹里が座り、向かいに紀夫と渡辺さんが座る。
「いらっしゃい。何にします?」
髭面の店主らしい人が水を置いた。
「コーヒーとケーキでいい?」
樹里がみんなに聞く。
「ケーキは何があるの?」
渡辺さんがマスターを見る。
「今日は苺のショートケーキとモンブランがあるけど」
「じゃあ、ショートケーキ」
「わたしも」
渡辺さんに樹里が同調する。
「俺はモンブランで」
「僕も」
男2人は同じものを注文した。
「飲み物はブレンドでいいかな」
マスターの問いに4人とも頷く。
「澤田君。ちょっとひどいんじゃない」
マスターがカウンターの向こうに戻ると、渡辺さんが僕を睨んだ。
「何が?」
「樹里をどこにも誘わないなんてひどくない? もちろん澤田君がそんなことできるような人ではないことは知ってるけど、付き合っている以上はちゃんとしなさいよ」
渡辺さんとは1年生の時も一緒のクラスだったから僕の性格はなんとなくわかるんだろう。
「ごめん」
僕は謝るしかない。
「いいのよ。隆司がそういう人だって分かって付き合っているんだから。ただ、ちょっと寂しかっただけよ」
樹里が寂しそうな顔をする。
「ごめん」
カノジョにこんな寂しい思いをさせるなんて僕は最低だ。
「なーんて。冗談よ。わたしは別に寂しいなんて思ったことないわ」
樹里が楽しそうに笑う。
また、芝居か。