頭の中に流れている映像を、僕は言葉にして読み始めた。
「はじめは、生きる理由探しと称してただ君がしたいことに僕も付き合わされているだけだと思ってた。実際、映画とかショッピングとかカラオケとかボーリングとか、全部君がやりたいことだったから。でも、ある時ふと思ったんだ。なんで僕となんだ、って。君には遊ぶ相手くらい探せばいくらでもいたはずなのに、僕と一緒じゃなくても君はやりたいことができたはずだったのに。まさか本当に成瀬さんは、僕の生きる理由を見つけようとしてるのかっ、て。
 その可能性を認めてみると、それまでの君との時間が全く違ったもののようにみえてきて、それからの君との時間を悪くないと思えるようになってきたんだ」
 成瀬さんは今、どんな表情をしてるだろうか。
「そしてそんな日々を過ごしていく中で、笑った顔や泣いた顔、嬉しそうな顔や拗ねた顔……成瀬さんのいろんな表情を知った。努力家な面や涙もろい面、ロマンチックな面や他人を思いやれる面……成瀬さんのいろんな心を知った。
そうして僕の中の『成瀬花菜』は今、僕の隣にいる君になった。いつの間にか僕は……」
 自然と躊躇いはなく、息をするように僕は────
「君のことを、好きになっていた」
 心が少しだけ、軽くなった気がした。
「だから、こんな君に育ててくれたお父さんが、君のことを想っていないはずがないと、思っただけだよ」
 正直なところ、僕が言ったことは何一つ根拠のない話だ。
 でも僕は別に、成瀬さんのお父さんを擁護したかったわけでも、告白をしたかったわけでもない。ただ、成瀬さんと過ごしてきた時間の中で感じたことを言葉にして伝えたかった、そして、隣で泣いている成瀬さんの涙を止めたかった。ただそれだけだ。
 しかし結果的に、それは逆効果となってしまった。
 話の途中までは止まりかけていたのに、再び成瀬さんの目からは涙が溢れ出してきた。体の中にある水分が無くなってしまうんじゃないかと思うくらい、今日の成瀬さんはまるで幼子のように泣いては泣きやんでを繰り返している。
 でも僕には何となく分かった。
 今流れているあの涙は、きっと温かいだろうと。
 僕は腰を上げリュックサックからタオルを持ってきて、うつむきながら泣く成瀬さんの頭の上にそっと置いた。そしてもう一度成瀬さんの隣に座り、静かに待った。
 空は若干雲が薄くなっていたが、それでも一面灰色のままだった。山の方からは電車のブレーキ音が聞こえてくる。
 数分間泣き続け今度こそ涙を出し尽くした成瀬さんは、右手でタオルをつかんでゆっくりと顔を上げてきた。そして頬に残った涙の跡をタオルで拭い、「ありがと、洗って返すね」と少し掠れた声で言ってきたので、「そのままでいいよ」と、僕は成瀬さんからそれを預かって畳んで砂浜の上に置いた。
「私ね、本当は分かってたの」
 成瀬さんは両手で大事そうに脚を抱き込み、黒ずんだ海を見つめながら、波のように穏やかな口調で話し始めた。