成瀬さんはそれを見て一瞬驚いた様子を見せた後、少し眉尻を下げて微笑んだ。
「ありがとね、でも大丈夫だよ。これ、わりと簡単に落ちてくれるから」
「…それならいいんだけど」
成瀬さんはある程度砂を払い落とすとすぐに靴下と靴を履いた。
その様子を見て僕がタオルをカバンにしまい込んだところで、ふと思い出した。
「そういえば成瀬さん、お昼ご飯、食べなくて大丈夫?」
時計がないので分からないけど、体感時間的に今は丁度お昼時だろう。
僕は出店とかで買う予定だったので食べ物は何も持ってきていなかったが、この付近にはそれがないので、現在は何も持っていない状態だ。ただ、朝ご飯を食べてからあまり時間が経っていないので、特にお腹は減っていなかった。
「私はあんまりお腹減ってないから大丈夫だよ。山野くんは?」
「僕も大丈夫だよ」
「そう」
その会話を皮切りに、僕たちの間には再び無言の時間が訪れた。
ふと、来た時とは何か景色が違うなと思って上を見ると、空には灰色の薄い雲がびっしりと敷き詰められ、太陽は顔を引っ込めていた。そのせいで気温が下がって少し肌寒くなり、鮮やかな青色を魅せていた海は若干黒ずんで見えた。ただ、雨が降り出しそうな空模様とは異なるものだ。
こんな空を見ていると、どうも今の自分が抱える心境と重なってしまう。
正直なところ、僕にとってはどうでもいいことだ。興味もないし、特に知りたいとも思わない。それに僕は、こういうことはあまり得意じゃないので、できれば何もしたくない。
ただそれでも、太陽が見えていないと少し寒いし、いい気はしない。
だから僕は、口を開く。
「成瀬さん」
「ん?」
こちらに向ける成瀬さんの作り笑いは
「なにがあったの」
「……え」
僕の言葉によって一瞬で消え去った。
「……なにがって?」
「それは、僕には分からないけど。……でも、何かがあったってことは、僕にでも分かるよ」
思い返しても今日の成瀬さんは明らかにおかしかった。
今まで一度もしたことのない遅刻をし、海へ行くのに何一つ荷物を持ってこず、急に目的地を変更する。
そして僕を、今日の成瀬さんは普通じゃないと確信に至らせた最大の要因は…
「今日の成瀬さんは、僕によく似ているから」
こんなにもヒントを与えられると、逆に気づかない方が難しい。
成瀬さんは少しの間、頭の中で思考を巡らす様子で自分の足元をじっと見つめた後、一度大きく息を吸い込んで、微かにのどを震わせながらそれをはきだした。
「あはは、山野くんは鋭いなー」
悲しみしか感じられない表情で、成瀬さんは笑う。
「ありがとね、でも大丈夫だよ。これ、わりと簡単に落ちてくれるから」
「…それならいいんだけど」
成瀬さんはある程度砂を払い落とすとすぐに靴下と靴を履いた。
その様子を見て僕がタオルをカバンにしまい込んだところで、ふと思い出した。
「そういえば成瀬さん、お昼ご飯、食べなくて大丈夫?」
時計がないので分からないけど、体感時間的に今は丁度お昼時だろう。
僕は出店とかで買う予定だったので食べ物は何も持ってきていなかったが、この付近にはそれがないので、現在は何も持っていない状態だ。ただ、朝ご飯を食べてからあまり時間が経っていないので、特にお腹は減っていなかった。
「私はあんまりお腹減ってないから大丈夫だよ。山野くんは?」
「僕も大丈夫だよ」
「そう」
その会話を皮切りに、僕たちの間には再び無言の時間が訪れた。
ふと、来た時とは何か景色が違うなと思って上を見ると、空には灰色の薄い雲がびっしりと敷き詰められ、太陽は顔を引っ込めていた。そのせいで気温が下がって少し肌寒くなり、鮮やかな青色を魅せていた海は若干黒ずんで見えた。ただ、雨が降り出しそうな空模様とは異なるものだ。
こんな空を見ていると、どうも今の自分が抱える心境と重なってしまう。
正直なところ、僕にとってはどうでもいいことだ。興味もないし、特に知りたいとも思わない。それに僕は、こういうことはあまり得意じゃないので、できれば何もしたくない。
ただそれでも、太陽が見えていないと少し寒いし、いい気はしない。
だから僕は、口を開く。
「成瀬さん」
「ん?」
こちらに向ける成瀬さんの作り笑いは
「なにがあったの」
「……え」
僕の言葉によって一瞬で消え去った。
「……なにがって?」
「それは、僕には分からないけど。……でも、何かがあったってことは、僕にでも分かるよ」
思い返しても今日の成瀬さんは明らかにおかしかった。
今まで一度もしたことのない遅刻をし、海へ行くのに何一つ荷物を持ってこず、急に目的地を変更する。
そして僕を、今日の成瀬さんは普通じゃないと確信に至らせた最大の要因は…
「今日の成瀬さんは、僕によく似ているから」
こんなにもヒントを与えられると、逆に気づかない方が難しい。
成瀬さんは少しの間、頭の中で思考を巡らす様子で自分の足元をじっと見つめた後、一度大きく息を吸い込んで、微かにのどを震わせながらそれをはきだした。
「あはは、山野くんは鋭いなー」
悲しみしか感じられない表情で、成瀬さんは笑う。