五分ほどすると街の中心部から抜け、窓の外の景色もビル群から住宅街に変化しだした。さらにそこから五分後が経過し、住宅街の中にある一つ目の駅に到着した。
この路線は各駅間の距離が非常に長いようで、一駅移動するだけでも十分もの時間を要し、距離もだいぶん進んだ。
再び電車は進行をはじめ、やがて住宅街を抜けると周囲には緑豊かな山々と稲畑が広がりだした。この光景にどこか懐かしさを覚えるのは、僕らが暮らす町とよく似ているからだろう。
そんな周囲の景色に見とれていると先頭車両の方が暗闇に覆われていて、それに気づいた時にはすでにこの車両も同じように真っ暗になった。
電車は、大きな山の麓を貫くトンネルの中を走っていた。
こうなると景色を楽しむ以前の問題なので、おとなしくトンネルを抜けるのを待った。
そしてこの暗闇にも目が慣れてきた時、電車の進行方向から微かな光が差し込んできたので僕は目をつむった。以前何かのテレビ番組で、明順応を早くするには瞼を透けてくる光に慣れてから、目を開けるといいと言っていたからだ。
電車はトンネルを抜け、おそらく車内には四方八方から光が襲ってきているだろう。
少しして僕は瞼を透ける光にも慣れたので、恐る恐る目を開けてみると、思わず息をのんでしまうほどの光景が、南側の車窓に広がっていた。
僕がそれを実際に見るのは初めてじゃない。
それでもこの瞬間だけは、僕はそれから目を離すことができなかった。
「これが……海……」
隣からボソッと聞こえてきた声で、僕はようやく自我を取り戻した。
しかし、その声をこぼした本人はというと、このオーシャンブルーに釘付けになっている。
僕ももう一度海に視線を戻すと、水面によって乱反射された日光がここまで届き、キラキラと目を刺激してくる。それを気にする様子もなく、成瀬さんは憧れていたものをじっと見つめている。
「山野くん!」
急に力強く僕の名前を呼んできた成瀬さんに驚き、体が少しびくっとなってしまった。
「…驚いた、どうしたの?」
「次で降りよう!」
「え?」
「いいから、行こう!」
僕の理解が追い付かないままに電車は減速を始め、三つ目の駅に停車した。そして扉が開かれたと同時に成瀬さんは僕の腕を引っ張り、一緒に外へ連れ出された。
高校の最寄り駅と比較してもだいぶんちっぽけで、周囲には家屋が一つも見当たらない。目に映っているものといえば、そびえたつ山々と海岸へ続いていると思われる獣道が一本だけ。そんな辺鄙な駅のホームに僕と成瀬さんは立っている。
たしか僕たちが目指していたのは、もう二つ先の駅だったはずだ。それなのになぜ今、僕たちはこんな場所にいるんだ。簡単だ、成瀬さんが僕の腕を引っ張って一緒に降ろされたからだ。じゃあなんで成瀬さんはここで降りたんだ。
今の状況を理解しようとこの夏で鍛え上げた脳をフル稼働させるも、僕の腕を離さないまま歩き出した成瀬さんによって、そんな僕の思考はホームに取り残され、体だけが海へと向かっていった。
この路線は各駅間の距離が非常に長いようで、一駅移動するだけでも十分もの時間を要し、距離もだいぶん進んだ。
再び電車は進行をはじめ、やがて住宅街を抜けると周囲には緑豊かな山々と稲畑が広がりだした。この光景にどこか懐かしさを覚えるのは、僕らが暮らす町とよく似ているからだろう。
そんな周囲の景色に見とれていると先頭車両の方が暗闇に覆われていて、それに気づいた時にはすでにこの車両も同じように真っ暗になった。
電車は、大きな山の麓を貫くトンネルの中を走っていた。
こうなると景色を楽しむ以前の問題なので、おとなしくトンネルを抜けるのを待った。
そしてこの暗闇にも目が慣れてきた時、電車の進行方向から微かな光が差し込んできたので僕は目をつむった。以前何かのテレビ番組で、明順応を早くするには瞼を透けてくる光に慣れてから、目を開けるといいと言っていたからだ。
電車はトンネルを抜け、おそらく車内には四方八方から光が襲ってきているだろう。
少しして僕は瞼を透ける光にも慣れたので、恐る恐る目を開けてみると、思わず息をのんでしまうほどの光景が、南側の車窓に広がっていた。
僕がそれを実際に見るのは初めてじゃない。
それでもこの瞬間だけは、僕はそれから目を離すことができなかった。
「これが……海……」
隣からボソッと聞こえてきた声で、僕はようやく自我を取り戻した。
しかし、その声をこぼした本人はというと、このオーシャンブルーに釘付けになっている。
僕ももう一度海に視線を戻すと、水面によって乱反射された日光がここまで届き、キラキラと目を刺激してくる。それを気にする様子もなく、成瀬さんは憧れていたものをじっと見つめている。
「山野くん!」
急に力強く僕の名前を呼んできた成瀬さんに驚き、体が少しびくっとなってしまった。
「…驚いた、どうしたの?」
「次で降りよう!」
「え?」
「いいから、行こう!」
僕の理解が追い付かないままに電車は減速を始め、三つ目の駅に停車した。そして扉が開かれたと同時に成瀬さんは僕の腕を引っ張り、一緒に外へ連れ出された。
高校の最寄り駅と比較してもだいぶんちっぽけで、周囲には家屋が一つも見当たらない。目に映っているものといえば、そびえたつ山々と海岸へ続いていると思われる獣道が一本だけ。そんな辺鄙な駅のホームに僕と成瀬さんは立っている。
たしか僕たちが目指していたのは、もう二つ先の駅だったはずだ。それなのになぜ今、僕たちはこんな場所にいるんだ。簡単だ、成瀬さんが僕の腕を引っ張って一緒に降ろされたからだ。じゃあなんで成瀬さんはここで降りたんだ。
今の状況を理解しようとこの夏で鍛え上げた脳をフル稼働させるも、僕の腕を離さないまま歩き出した成瀬さんによって、そんな僕の思考はホームに取り残され、体だけが海へと向かっていった。