「じゃあ、いってきます」
「気をつけてね。晩ご飯いらなかったら、また連絡ちょうだい」
「うん、わかった」
僕は玄関に鍵をかけ、いつもの通学に利用している駅へ歩き始めた。
空にはわずかに薄い雲がかかっているが、それでも天気が崩れそうなほどではない。気温は高すぎず低すぎず、比較的過ごしやすくなっていると思われるが、風がほんのりと生暖かく、まだ夏は終わっていないんだということ教えてくれている。
今日は満を持して迎えた夏休みの最終日。
僕は成瀬さんとの待ち合わせのため、駅のすぐ隣にあるバス停に向かっていた。九時集合ということになっていたので、余裕をもって八時半に家を出たから万が一にも遅刻することはない。
今日は海に行くということなので、ロールアップしやすい紺のボトムスと脱ぎやすいランニングシューズを履いてきた。僕は海の中に入る気はないけど、もし成瀬さんに海へ入ろうと誘われた場合に備えて、その打開策として足だけは入れるようにしておこうという考えだ。
だからもちろん水着も持ってきていないし、リュックの中にはタオルと帰りに羽織るパーカーしか入れてきていない。さすがに帰りも半袖で過ごせるほど、今の時期は甘くない。
僕は駅に着くとそのまま駅中を横断し、バス停のあるロータリーに出た。ロータリーの真ん中に設置されている木で造られた古びた時計塔を見ると、八時五十分を少し過ぎたあたりだった。
辺りを見渡して成瀬さんの姿を探したが、まだ見えないのでバス停にある色の褪せた青いベンチに腰掛け、成瀬さんを待つことにした。成瀬さんの家からここまでは歩いてこれる距離ではないらしく、いつも成瀬さんが降りる駅から電車に乗って来ると言っていた。だから僕は駅の改札口を時折気にしながら、ぼーっと時計塔をながめていた。
ボーンという鐘をつくような音が鳴り響いたと同時に、時計の針は九時を指示した。
それなのに成瀬さんの姿はまだない。
五分ほど前に成瀬さんの駅方面からの電車がホームに入って停車していたが、そこから成瀬さんが出てくることはなく、そのまま次の駅へと進んでいってしまった。
成瀬さんは今まで一度も約束の時間に遅刻したことはなかったので、もしかしたら僕が認識している集合時間が間違っているのではないかと不安が生じ始めてきた。
そんな時、再び駅のホームに電車が入ってきて、扉が開かれた瞬間に中から白い影が飛び出してきた。その影は改札を抜けて一瞬立ち止まってキョロキョロと周囲を見渡すそぶりをしたあと、バス停にいる僕を見つけて、走って駆け寄ってくる。
それは白いワンピースに白い麦わら帽子、おまけに白い運動靴まで履いて、全身を真っ白にコーディネートしてきた成瀬さんだった。その姿はまるで、翼だけがない天使のようだ。
成瀬さんは僕の前まで来ると、少し上がった息を整えてから申し訳なさそうに口を開いた。
「気をつけてね。晩ご飯いらなかったら、また連絡ちょうだい」
「うん、わかった」
僕は玄関に鍵をかけ、いつもの通学に利用している駅へ歩き始めた。
空にはわずかに薄い雲がかかっているが、それでも天気が崩れそうなほどではない。気温は高すぎず低すぎず、比較的過ごしやすくなっていると思われるが、風がほんのりと生暖かく、まだ夏は終わっていないんだということ教えてくれている。
今日は満を持して迎えた夏休みの最終日。
僕は成瀬さんとの待ち合わせのため、駅のすぐ隣にあるバス停に向かっていた。九時集合ということになっていたので、余裕をもって八時半に家を出たから万が一にも遅刻することはない。
今日は海に行くということなので、ロールアップしやすい紺のボトムスと脱ぎやすいランニングシューズを履いてきた。僕は海の中に入る気はないけど、もし成瀬さんに海へ入ろうと誘われた場合に備えて、その打開策として足だけは入れるようにしておこうという考えだ。
だからもちろん水着も持ってきていないし、リュックの中にはタオルと帰りに羽織るパーカーしか入れてきていない。さすがに帰りも半袖で過ごせるほど、今の時期は甘くない。
僕は駅に着くとそのまま駅中を横断し、バス停のあるロータリーに出た。ロータリーの真ん中に設置されている木で造られた古びた時計塔を見ると、八時五十分を少し過ぎたあたりだった。
辺りを見渡して成瀬さんの姿を探したが、まだ見えないのでバス停にある色の褪せた青いベンチに腰掛け、成瀬さんを待つことにした。成瀬さんの家からここまでは歩いてこれる距離ではないらしく、いつも成瀬さんが降りる駅から電車に乗って来ると言っていた。だから僕は駅の改札口を時折気にしながら、ぼーっと時計塔をながめていた。
ボーンという鐘をつくような音が鳴り響いたと同時に、時計の針は九時を指示した。
それなのに成瀬さんの姿はまだない。
五分ほど前に成瀬さんの駅方面からの電車がホームに入って停車していたが、そこから成瀬さんが出てくることはなく、そのまま次の駅へと進んでいってしまった。
成瀬さんは今まで一度も約束の時間に遅刻したことはなかったので、もしかしたら僕が認識している集合時間が間違っているのではないかと不安が生じ始めてきた。
そんな時、再び駅のホームに電車が入ってきて、扉が開かれた瞬間に中から白い影が飛び出してきた。その影は改札を抜けて一瞬立ち止まってキョロキョロと周囲を見渡すそぶりをしたあと、バス停にいる僕を見つけて、走って駆け寄ってくる。
それは白いワンピースに白い麦わら帽子、おまけに白い運動靴まで履いて、全身を真っ白にコーディネートしてきた成瀬さんだった。その姿はまるで、翼だけがない天使のようだ。
成瀬さんは僕の前まで来ると、少し上がった息を整えてから申し訳なさそうに口を開いた。