そしてその「やるべきこと」というのは、言わずもがな勉強のことだ。最低でも学校から出された夏休みの課題を終わらせてから、というのが海に行く条件となった。
 僕は別に海に行きたいと思っていないので、課題を夏休みの最終日まで終わらせなければ海に行かなくてもいいんじゃないかとも考えはしたけど、それは僕にとってデメリットしかないし、図書館であんなにも教えてくれている成瀬さんに申し訳ない。そして何より、あと一週間もすれば間違いなく僕は課題を終わらすだろう。
 それに、成瀬さんは海で泳ぐことを目的としていない。あくまで「海を見る」ことが成瀬さんのメインの目的なので、最悪、夏休みの最終日に行くことになってもいいと成瀬さんは言っていた。そしてそのあとに、
「もちろん、山野くんのメインの目的は、生きる理由を探すことだからね!」
と、おまけのように言ってきた。
 そんなわけで僕たちが海に行くのは、僕の課題が終わってから要相談というかたちで保留となっている。
 翌日からも同じような時間を過ごし、僕の見立てより少し遅くなった十日後についに、僕も夏休みの課題を終えることができた。僕の記憶が正しければ、僕がこれまで経験した夏休みの中では、こんなにはやい時期に課題を終わらせれたことはない。
 自然と達成感は僕の中に湧いてこず、どちらかというと脱力感の方が強い。もう終わらせた、ではなくやっと終わらせることができた、といった感じだ。
 それでも、今の僕は過去の僕よりも優れているはずだ。
 ただ、脱力感と少しの優越感に浸っている僕の隣には、僕の半分以下の日数で課題を終え、あの問題集なんかよりも確実に難易度が高いであろう問題を解き続けている成瀬さんがいるので、そんなちっぽけな感情は一瞬にして打ち消された。
 僕の課題が終わり、とりあえずは二人ともノルマを達成できたということで、今日、僕たちは今後の予定決めを兼ねて繁華街のカフェに来ていた。
 いつもの図書館ではあまり喋れないし、たまには休むことも必要だという成瀬さんの提案に僕もまんまとのった。
 相変わらずの喧騒が立ち込めるこの地域は、成瀬さんと初めて映画を観に来た時から幾度となく足を運ばされているので、ちょっとは僕もここの空気に馴染んできたんじゃないかと錯覚してしまう。
 去年までの僕じゃ絶対にありえないことだけど、この四か月の間にこの場所で、映画を観たりカラオケやボーリングに行ったりと、様々な娯楽を体験してきた。成瀬さんいわく、そんなことも全部生きる理由探しの一環らしい。