僕はテーブルに戻り、食事を再開した。もうすっかり冷えきった豚の生姜焼きは、それでもおいしかった。
食事を終えて洗い場にたまった食器などを洗った後、汗が乾いて異臭を放っている衣服をまとめて洗濯機へ放り込み、粉末状洗剤と柔軟剤を適量いれてからスタートボタンをおして風呂に入った。ほかの季節だったら湯船にたまった残り湯を使って洗濯するんだけど、夏は基本的にはシャワーだけで済ませるので、洗濯にはきれいな水道水を使っている。
風呂からあがり洗濯機を見ると残り時間が三十分と表示されていたので、一度洗面所をあとにしてリビングへもどった。
読んでいた小説を昨日読みきってしまって手持無沙汰なので、仕方なくリュックサックから筆記用具と問題集を取り出し、食堂のテーブルの上に広げて勉強を始めた。この空間には僕以外誰もいないしテレビもついていないのでエアコンの稼働音がよく聞こえてくる。この音を聞いていると、僕は自然と手を動かす気になってくる。
やがて、ピーッという音が聞こえてきたのでペンをテーブルの上に置き、洗面場へいくと洗濯機が、親に「じっとしてろ」と怒られた子供みたいに動かなくなっていたので、ふたを開けて中から洗濯物を取り出して別のカゴに移してから、それをもって二階のベランダへ向かった。
二階はどの部屋も窓を開けているだけの状態だったけど、今夜は比較的涼しく、冷房をガンガンに効かせているリビングよりもほんの少しだけじめじめしている程度だった。
同じ夏なのに、空に出ているのが太陽か月かというだけでここまで気温が違ってくると、少なくとも八月の終わりまでは太陽には休んでいてもらいたいと思う僕を、誰が非難できるだろうか。
スリッパをはいてベランダに出ると、今日も夜空には満天の星たちが輝いていた。
世に言う「田舎」という部類に属するこの町がもつ、数少ない利点の一つでもあるこの夜空は決して都会では目にすることができないと思う。普段から見慣れているとあまりありがたみは感じられないが、それでも確かに、この光景が美しいということだけは十分に理解しているつもりだ。
夜空に鳴り響く虫たちが奏でる音色と、どこか懐かさが感じられる夏の夜風に吹かれながら、僕は洗濯物を一つ一つ丁寧にハンガーにかけ、それを物干し竿にぶら下げていく。
洗濯物はあまり多くなく作業はすぐに終わった。空になったカゴを洗面所へ戻しにいき、ついでに歯磨きを済ませた。
もう少し問題集を進めようかなとも思ったけど、そんな僕の思考を一瞬にして睡魔が覆いつくしてきたので、食堂に広げっぱなしの勉強道具一式をリュックサックにしまい込んで、エアコンの電源と電気を消して自室へ向かう準備を整えた。
二階へ上がる前に玄関の戸締りを確認し、その足で階段をあがった。
一歩進むごとに僕の意識は曖昧なものになっていき、部屋のベッドに寝転んだと同時に完全に意識が途絶えて眠りについた。
夏休みが経過してからの二週間、僕は大体今日みたいな感じの日々を繰り返していた。
休み、というものは過ぎるのが非常にはやく、気づくともうすぐ折り返し地点を迎えようとしている。
正直、僕にとっては休みを過ごすこと学校に行くことには大した違いはないから、夏休みが過ぎていくことに悲しみを抱いたりはしなかった。
ただ、僕はこの夏に一つだけやらなければいけないことがあった。
それは、一学期の学期末試験最終日、帰りの電車の中で成瀬さんとした『海に行く』という約束を果たすことだ。僕たちが未だにこの約束を成し遂げれていないのは、成瀬さんの「楽しむのは、やるべきことをやった後だよ」という、いかにも偏差値の高そうな言葉があったからだ。
食事を終えて洗い場にたまった食器などを洗った後、汗が乾いて異臭を放っている衣服をまとめて洗濯機へ放り込み、粉末状洗剤と柔軟剤を適量いれてからスタートボタンをおして風呂に入った。ほかの季節だったら湯船にたまった残り湯を使って洗濯するんだけど、夏は基本的にはシャワーだけで済ませるので、洗濯にはきれいな水道水を使っている。
風呂からあがり洗濯機を見ると残り時間が三十分と表示されていたので、一度洗面所をあとにしてリビングへもどった。
読んでいた小説を昨日読みきってしまって手持無沙汰なので、仕方なくリュックサックから筆記用具と問題集を取り出し、食堂のテーブルの上に広げて勉強を始めた。この空間には僕以外誰もいないしテレビもついていないのでエアコンの稼働音がよく聞こえてくる。この音を聞いていると、僕は自然と手を動かす気になってくる。
やがて、ピーッという音が聞こえてきたのでペンをテーブルの上に置き、洗面場へいくと洗濯機が、親に「じっとしてろ」と怒られた子供みたいに動かなくなっていたので、ふたを開けて中から洗濯物を取り出して別のカゴに移してから、それをもって二階のベランダへ向かった。
二階はどの部屋も窓を開けているだけの状態だったけど、今夜は比較的涼しく、冷房をガンガンに効かせているリビングよりもほんの少しだけじめじめしている程度だった。
同じ夏なのに、空に出ているのが太陽か月かというだけでここまで気温が違ってくると、少なくとも八月の終わりまでは太陽には休んでいてもらいたいと思う僕を、誰が非難できるだろうか。
スリッパをはいてベランダに出ると、今日も夜空には満天の星たちが輝いていた。
世に言う「田舎」という部類に属するこの町がもつ、数少ない利点の一つでもあるこの夜空は決して都会では目にすることができないと思う。普段から見慣れているとあまりありがたみは感じられないが、それでも確かに、この光景が美しいということだけは十分に理解しているつもりだ。
夜空に鳴り響く虫たちが奏でる音色と、どこか懐かさが感じられる夏の夜風に吹かれながら、僕は洗濯物を一つ一つ丁寧にハンガーにかけ、それを物干し竿にぶら下げていく。
洗濯物はあまり多くなく作業はすぐに終わった。空になったカゴを洗面所へ戻しにいき、ついでに歯磨きを済ませた。
もう少し問題集を進めようかなとも思ったけど、そんな僕の思考を一瞬にして睡魔が覆いつくしてきたので、食堂に広げっぱなしの勉強道具一式をリュックサックにしまい込んで、エアコンの電源と電気を消して自室へ向かう準備を整えた。
二階へ上がる前に玄関の戸締りを確認し、その足で階段をあがった。
一歩進むごとに僕の意識は曖昧なものになっていき、部屋のベッドに寝転んだと同時に完全に意識が途絶えて眠りについた。
夏休みが経過してからの二週間、僕は大体今日みたいな感じの日々を繰り返していた。
休み、というものは過ぎるのが非常にはやく、気づくともうすぐ折り返し地点を迎えようとしている。
正直、僕にとっては休みを過ごすこと学校に行くことには大した違いはないから、夏休みが過ぎていくことに悲しみを抱いたりはしなかった。
ただ、僕はこの夏に一つだけやらなければいけないことがあった。
それは、一学期の学期末試験最終日、帰りの電車の中で成瀬さんとした『海に行く』という約束を果たすことだ。僕たちが未だにこの約束を成し遂げれていないのは、成瀬さんの「楽しむのは、やるべきことをやった後だよ」という、いかにも偏差値の高そうな言葉があったからだ。