平凡な顔つきに、平均のぎりぎり下を攻め続ける成績、学校に友達は一人もいない。このクラスにカースト制度があったなら、僕と彼女は対極に位置するだろう。
「成瀬さん、じゃあ今年もお願いしてもいいかな?」
こうなることが最初から分かっていたかのような笑顔で、先生は成瀬さんに訊いた。
成瀬さんは去年も学級委員長を務めていたし、教室内の誰もが彼女を認めている。断る理由もないだろう。
「私でよければ、よろしくお願いします」
成瀬さんは躊躇う様子も見せず、快く引き受けていた。教室からは拍手が上がる。
正直僕は、成瀬さんのことをあまり好ましく思っていなかった。彼女のように、今まで人生で失敗を経験したことがないような自信に満ち溢れた人種は、うらやましいとも思うが、それ以上に、僕の中の何かが受けつけたくないと言っている。
だからといって、彼女の委員長就任に反対するといったことではなく、僕も拍手の一部となる。
「はい、じゃあ今日はこれで終わりです。明日、四月九日の金曜日は一年生の振り返りテストがあるので、みなさん、休まないようにしてくださいね」
先生の一言で、帰宅できることに対する歓喜と、明日テストがあることに対する悲哀とで、教室は不思議な色に包まれた。
そんな時間も束の間、教室からは次々と人がいなくなっていく。丁度他のクラスも終わったようで、今下駄箱に行っても混雑に巻き込まれそうだったので、僕は席に座ったまま窓の外を眺めて時間を潰した。
やがて教室には僕と大森先生しかいなくなっていた。先生は何か作業をしているようだった。
「そろそろかな……」
中身がほとんど空っぽのリュックサックを背負い、僕は教室を後にしようとした。
「山野くん」
教室を出かけたところで、僕は背後からの声に引きとめられた。
声のした方を向くと、先生はいつの間にか作業を中断させ、じっと僕を見つめている。そして案じるように尋ねてきた。
「もう、大丈夫?」
一瞬、僕の周囲から酸素が失われた気がした。
「もう大丈夫です」
先生の目を見ずにただそれだけを答え、僕は教室を出る。
学校を出て、校門の桜に見送られながら駅に向かう。少し教室でのんびりしすぎたようで、登校してきた時とは違って僕の周囲には学生が全然いなかった。いつの間にか空には分厚い雲がかかり、太陽は顔を引っ込めている。今にも雨が降りだしてきそうな空だ。
歩いていると、僕の脳裏に一つの思い出が浮かびあがってきた。
「成瀬さん、じゃあ今年もお願いしてもいいかな?」
こうなることが最初から分かっていたかのような笑顔で、先生は成瀬さんに訊いた。
成瀬さんは去年も学級委員長を務めていたし、教室内の誰もが彼女を認めている。断る理由もないだろう。
「私でよければ、よろしくお願いします」
成瀬さんは躊躇う様子も見せず、快く引き受けていた。教室からは拍手が上がる。
正直僕は、成瀬さんのことをあまり好ましく思っていなかった。彼女のように、今まで人生で失敗を経験したことがないような自信に満ち溢れた人種は、うらやましいとも思うが、それ以上に、僕の中の何かが受けつけたくないと言っている。
だからといって、彼女の委員長就任に反対するといったことではなく、僕も拍手の一部となる。
「はい、じゃあ今日はこれで終わりです。明日、四月九日の金曜日は一年生の振り返りテストがあるので、みなさん、休まないようにしてくださいね」
先生の一言で、帰宅できることに対する歓喜と、明日テストがあることに対する悲哀とで、教室は不思議な色に包まれた。
そんな時間も束の間、教室からは次々と人がいなくなっていく。丁度他のクラスも終わったようで、今下駄箱に行っても混雑に巻き込まれそうだったので、僕は席に座ったまま窓の外を眺めて時間を潰した。
やがて教室には僕と大森先生しかいなくなっていた。先生は何か作業をしているようだった。
「そろそろかな……」
中身がほとんど空っぽのリュックサックを背負い、僕は教室を後にしようとした。
「山野くん」
教室を出かけたところで、僕は背後からの声に引きとめられた。
声のした方を向くと、先生はいつの間にか作業を中断させ、じっと僕を見つめている。そして案じるように尋ねてきた。
「もう、大丈夫?」
一瞬、僕の周囲から酸素が失われた気がした。
「もう大丈夫です」
先生の目を見ずにただそれだけを答え、僕は教室を出る。
学校を出て、校門の桜に見送られながら駅に向かう。少し教室でのんびりしすぎたようで、登校してきた時とは違って僕の周囲には学生が全然いなかった。いつの間にか空には分厚い雲がかかり、太陽は顔を引っ込めている。今にも雨が降りだしてきそうな空だ。
歩いていると、僕の脳裏に一つの思い出が浮かびあがってきた。