そうこうしているうちに料理が運ばれてきた。少なめに頼んだけど、食べきれるか若干心配ではあった。でも実際食べ始めると意外とおなかに入り、僕も成瀬さんもわりと短時間で完食することができた。
会計を済ませ店を出ると空はすっかり真っ暗になっていたが、街には明かりが多すぎてあまり夜という感じがしなかった。空には雲がかかっているのか、満天の星空も光り輝く月も見えなかった。僕たちは帰宅するため駅へ向かった。
特に時刻表は見てなかったけど、僕たちが駅に着いてホームに上がったタイミングで丁度電車が来たのでそれに乗った。もう時間が遅いということもあり車内は空席だらけだったけど、何となく立っていたい気分だったので、僕は電車の進行方向に背を向け、扉のすぐ横にある手すりにもたれかかった。僕より先に車内に入った成瀬さんは、一度は座席に座ったがすぐにこちらに気づいて僕の正面にある手すりに、僕と向かい合うようにもたれかかった。
「すっかり遅くなっちゃったね」
「そうだね」
「今日は付き合ってくれてありがとうね。あの映画、ほんとに観たかったの」
「……、やっぱり成瀬さんが映画を観たかっただけじゃないか」
「あ、いや、もちろん今日のメインの目的は山野くんの生きる理由探しだったよ!」
「……………」
「その目は何かな」
「…別に」
成瀬さんは動揺をかき消すように僕から目をそらして、わざとらしく咳払いをした。
それから再び僕と目を合わせ、柔和な表情と口調で訊いてきた。
「「生きる理由は見つかったかな?」
正直、僕自身も今日の目的、いや、目的といえる代物なのかは分からないけど、その存在をついさっきまで忘れていた。僕は車窓から、流れゆく外の光に目をやった。
「生きる理由っていうものが何なのか、未だによくわかってないんだけど、見つかったかって訊かれると、多分、見つかってないと思う」
「あはは、まあそうだよね。まぁまだ時間は残ってるし、ゆっくりと探していこうよ」
成瀬さんの言葉に何か違和感を覚えたが、深く考えるほどの事でもないような気がしたので指摘はしなかった。それよりも、僕が今思っていることを、言葉という形にすることだけに集中していた。
「ただ、」
やっと少しだけ、思いのかけらを外に出すことができた。僕の声に、成瀬さんは不思議そうに首をかしげている。僕は心臓の鼓動を確かに感じながら、言葉を絞り出した。
「今日は……楽しかったよ」
さっきまで言葉を収めていた部分にマグマが注ぎ込まれたように、僕の頭は熱を帯びていった。それが成瀬さんに悟られないように、表面上だけは何とか平静を保てるように全力を尽くした。
成瀬さんを見ると、何を言われたのか分からないような表情をしていた。だがそんな表情も一瞬で、徐々に口角がつり上がって、僕がよく知っている表情になった。
「うんっ、私も!」
淀みのない純粋な笑顔で成瀬さんはそう言った。
会計を済ませ店を出ると空はすっかり真っ暗になっていたが、街には明かりが多すぎてあまり夜という感じがしなかった。空には雲がかかっているのか、満天の星空も光り輝く月も見えなかった。僕たちは帰宅するため駅へ向かった。
特に時刻表は見てなかったけど、僕たちが駅に着いてホームに上がったタイミングで丁度電車が来たのでそれに乗った。もう時間が遅いということもあり車内は空席だらけだったけど、何となく立っていたい気分だったので、僕は電車の進行方向に背を向け、扉のすぐ横にある手すりにもたれかかった。僕より先に車内に入った成瀬さんは、一度は座席に座ったがすぐにこちらに気づいて僕の正面にある手すりに、僕と向かい合うようにもたれかかった。
「すっかり遅くなっちゃったね」
「そうだね」
「今日は付き合ってくれてありがとうね。あの映画、ほんとに観たかったの」
「……、やっぱり成瀬さんが映画を観たかっただけじゃないか」
「あ、いや、もちろん今日のメインの目的は山野くんの生きる理由探しだったよ!」
「……………」
「その目は何かな」
「…別に」
成瀬さんは動揺をかき消すように僕から目をそらして、わざとらしく咳払いをした。
それから再び僕と目を合わせ、柔和な表情と口調で訊いてきた。
「「生きる理由は見つかったかな?」
正直、僕自身も今日の目的、いや、目的といえる代物なのかは分からないけど、その存在をついさっきまで忘れていた。僕は車窓から、流れゆく外の光に目をやった。
「生きる理由っていうものが何なのか、未だによくわかってないんだけど、見つかったかって訊かれると、多分、見つかってないと思う」
「あはは、まあそうだよね。まぁまだ時間は残ってるし、ゆっくりと探していこうよ」
成瀬さんの言葉に何か違和感を覚えたが、深く考えるほどの事でもないような気がしたので指摘はしなかった。それよりも、僕が今思っていることを、言葉という形にすることだけに集中していた。
「ただ、」
やっと少しだけ、思いのかけらを外に出すことができた。僕の声に、成瀬さんは不思議そうに首をかしげている。僕は心臓の鼓動を確かに感じながら、言葉を絞り出した。
「今日は……楽しかったよ」
さっきまで言葉を収めていた部分にマグマが注ぎ込まれたように、僕の頭は熱を帯びていった。それが成瀬さんに悟られないように、表面上だけは何とか平静を保てるように全力を尽くした。
成瀬さんを見ると、何を言われたのか分からないような表情をしていた。だがそんな表情も一瞬で、徐々に口角がつり上がって、僕がよく知っている表情になった。
「うんっ、私も!」
淀みのない純粋な笑顔で成瀬さんはそう言った。