造形物のように整った横顔、宝石のように輝く目からこぼれた雫は頬に一筋の線を描き、重力にその身をゆだねながら下に落ちていった。成瀬さんは泣いていた。その姿は、流れ星やオーロラのような、自然が織りなす神秘的な光景に近い感じがした。
 本当に不思議に思う。なんでこんな子が、僕なんかのためを思って行動してくれるのか。
 成瀬さんは、いったい何を思っているのか。何を考えているのか。それはもしかしたら、僕には一生理解できないことなのかもしれないと思った。
 結局、最後まで僕は泣かなかった。

「いやー、ほんとにいい映画だったねぇ」
「そうだね」
「私はやっぱり泣いちゃった」
「残念ながら、僕は泣けなかったよ」
「……山野くんって、もしかして血通ってないの?」
「……一応通ってるよ」
 映画を観終わった僕たちは映画館を出て、駅に向かう途中にあったファミレスに入っていた。
 正直、あまりおなかは減っていない。自分が食べたいと言い出したのに、映画に集中しすぎてほとんど手がつけられなかったポップコーンを、成瀬さんの代わりに僕が食べる羽目になっていたからだ。
 僕は比較的軽めのものを注文し、成瀬さんはその見た目に反して結構多くの料理を頼んでいた。
「山野くんはどのシーンが印象的だった?」
 水の入ったグラスを右手でゆっくり回転させていると、成瀬さんが訊いてくる。
「しいて言うなら、あのシーンかな。A男が初めてB子に告白して、振られた場面」
「あー、あのシーンは切なかったよね。B子もA男が好きだったのに、自分が死んだ後のA男のことを考えての決断だったもんね」
「逆にあそこで一回振ったからこそ、そこからの展開が面白くなっていったっていうのはあると思うけど」
「ほんとにそれだよね、A男を愛してるって気持ちと、でも悲しませたくないって気持ちの狭間で葛藤してるB子には思わず感情移入しちゃったよ」
「まぁ結局最後はそのどっちの思いも達成できたって感じだったからよかったんじゃない………ってなんでそんなにニヤニヤしてるの」
「え、あ、いや。山野君ちゃんと映画観てたんだなぁって思って」
 成瀬さんがニヤニヤと僕の方を見てくるので、なんだか少し恥ずかしくなってグラスに残っていた水を一気に飲みほした。
「観に来てよかった?」
「……まぁ」
 よかった、と言って成瀬さんは微笑んでいた。