別の映画の上映が終わったようで、中からたくさんの人が出てきた。それといれかわるように僕は中へ入り、柔らかい絨毯の上を歩きながら三番シアターを目指した。
 シアタールームに入ると中は一段と暗く、さらに今スクリーンに映し出されている映画の宣伝が丁度暗いシーンだったので、僕は座席までの階段を上がりながら自分が今どこにいるのかが分からなくなった。
「山野くん、こっちだよ」
 僕を呼ぶ声が聞こえたと同時にスクリーンも明るくなり、自分が立っている場所と座席の位置をしっかりと把握することができた。
「ねぇ山野くん、さっきから映画の宣伝がどれも面白そうなのばっかりなんだけど」
「まぁそう思わせるのが宣伝の役目だからね」
 先に入って座っていた成瀬さんの右の座席に腰掛け、心地のいい体勢を探しながら静かに返答した。
 僕が座って間もなく、ながれていた宣伝が終わり、いよいよ本編が始まりそうな雰囲気になってきた。
「そろそろ始まりそうだね」
「そうだね」
 それから成瀬さんはスクリーンを見たままそっとつぶやいた。
「じゃあ山野くん、また二時間後に」
「…うん」
 上映が始まった。
 映画は、僕が思っていた内容とほとんど同じものだった。主人公のA男はちょっと冷たい感じの高校生で、ある日、同じ高校に通っているB子が不治の病にかかっていることを偶然にも知ってしまう。それまで全く接点のなかった二人は、「秘密を共有している」という関係で行動を共にしていくようになり、やがてお互いに惹かれ合っていくようになる。しかし、B子の寿命はもう長くはなかった。A男は何とかB子が死なないようにできないかと考えるも、B子の体は日に日に弱っていった。そして物語は、クライマックスである二人の別れのシーンになった。
『ごめんね、A君。つらい思い、させて』
『俺の方こそ、本当にごめん。死なせないって、約束したのに』
『いいんだよ。私はA君と出会えたことが、短い間だったけど同じ時間を共有できたことが、本当に幸せだったから』
 スクリーンの中では、涙を流すA男と衰弱しきったB子が夜景を見下ろしながら会話している。周囲からは、鼻をすする音が聞こえ始めた。僕も感動こそしていたが、目から涙は出てきてくれなかった。
『だからねA君、最後は笑顔で見送ってほしいな』
 ふと、尻目に左側を見た。
 僕は思わず目を見開く。