「君の…山野くんの、『生きる理由』探し!」
「…………いや、別にいいよ」
 やっぱり成瀬さんはとんでもないことを言い出した。生きる理由?なにそれ、そんなもの僕には必要ない。
「だってこのままほっといたら、山野くん、また死のうとしちゃいそうだし。だから、生きたいって思えるような何かを、見つけてほしいの!」
 成瀬さんは嬉しそうに続ける。
「そしてその手伝いを、私がするの」
「……僕はそんな理由探さないし、手伝いも必要ないよ」
 僕が断ることを予想してたかのように、成瀬さんは「じゃあ、」と言って……
「命の恩人からのお願いってことで、どうかな」
「……それは、ちょっとずるくないかな」
「何もずるくないよ」
 成瀬さんの笑顔が、段々といたずらっ子のそれに見えてきた。
 命の恩人。そのパワーワードを出してこられると僕は何も反論できない。僕は諦めて軽くため息をついた。
「僕は何をすればいいの?」
「山野くんは、これから自分が生きたいって思えるような何かを探すの。その手助けを私がする。これが、私からのお願いだよ」
 成瀬さんは、真剣な目をしていた。
「…………分かったよ」
「よし!」
 成瀬さんは、今度は無邪気な笑顔をしていた。
「でも、なんで成瀬さんはそんなことをしようとするの?」
「そんなことって、なんで私が山野くんを手伝うのかってこと?」
「うん」
「うーん、そうだなぁ…………」
 成瀬さんは顎を手で支えて少し考えるそぶりを見せた後、何か思いついたように小さく、あ、と声を出した。それから成瀬さんは自分の腰に手を当て、数分前に見た気がする表情で僕を見つめながら言ってきた。
「だって私、委員長だもん」
「……それはまるで魔法の言葉だね」
「ふふっ、そうかもね」
 こうして僕と彼女の、僕の「生きる理由」を探す日々が始まった。
 この時僕たちは、これから僕たちが過ごしていく日々の本当の意味を、心のどこかで理解していたのかもしれない。