みなさま『ごきげんよう』というご挨拶について、なにかおっしゃってますけど!

 これ、使い始めるとすごく『楽』なのでございますのよ。

 朝も、帰りの挨拶も、この一言で済みますし!

 それに『お嬢さまにしては地味』って。

 今日び、真のセレブリティは、ブランドのロゴマークを表に出すような、服の着方はしませんの。

 ブランドモノとは名ばかりの、安物なポーチをこれ見よがしに机の上に置いておく方がお下品ですわ。

 おほほほほ~~


 ……てなことを言うために、わざわざ君去津に来たわけじゃ、ないんだけどなぁ。

 最初の一歩でコケたら、残りの何もかもが全~~部失敗しそうで、ヤダ。

 あ~~あ。

 ……こんなはずじゃなかったんだけどなぁ。

 そんな最悪な気分で『入学式前のホームルーム』とやらを終え。

 後は、式会場の体育館への移動時間まで、待ってるようにって言われていた、最中だった。

 何やら、校庭周辺で騒ぎが起こった……らしい。

 きゃーーっなんていう、女子の嬉しそうな悲鳴と。

 男子たちの、う″ぉ~~っていう良く判らない雄たけびが、聞こえて来たような気がする。

 何が起こったんだろう?

 近くの窓から身を乗り出して良く見ると、体育館の周辺に人だかりが出来ていた。

 どうやら、入学式が終わった後、部活動の新入部員募集のアピールをするみたい。

 各部の代表の先輩たちが、各部のユニホームを着たり、道具を用意している最中……かな?

 その中の一部で、生徒たちのがとんでもなく盛りあがっていたんだ。

 しかも、みんな悲鳴やら怒号の合間に何か、口々に叫んでる。

「えっ……ええと。
 ダイヤモンド・キング? クローバー・ジャック?
 うーんと……Cards soldier(カーズソルジャー)って……?
 なんか、どっかで聞いた覚えが……」

 叫び声を聞いたまま、口に出してつぶやいていたら、わたし、肩をがしっと、つかまれてた。

「Cards soldierだって!
 どこどこどこ! どこにいるの!?」

 何だか、すっごいハイテンションと、パワー!

 その迫力に、恐る恐る振り返ると、小柄で短めのみつあみを横にぴん、と立てた女の子がいた。

 彼女は、わたしを窓から引きはがし、自分が外を見ようと首を伸ばす。

「ごめん。
 わたしCards soldierっての初めてで!
 誰がどれやら……さっぱり」

 本当はようやく。

 そのCards soldier(カーズソルジャー)ってヤツ!

 さっき出会った金髪の男子が言ってた、君去津高のインディーズだって思い出したけど。

 名前をちらっと聞いただけ……じゃあねぇ。

 別に未練もなにもなく、簡単に窓際の場所を譲るわたしを、彼女は信じられないモノを見るように言った。