翠も私も、それぞれの部屋に閉じこもる。
 翠の部屋から、すすり泣く声が聞こえてくる。
 耳を塞いで、それを聞くことを拒絶する私。

 翠はそのまま部屋に閉じこもり、夕食の時間にもダイニングに降りて来なかった。
 両親が心配して仲直りを勧めたが、ヘソを曲げた私は頑なに謝罪を拒んだ。

 母に説得され、翠は一人で遅い夕食を摂った…。涙を流しながら…。
 私は、その姿を見ていられなくて、入れ替わりに自分の部屋に逃げ込んだ。

 それは、そんな翠の姿を痛々しく思ったからだ。
 可哀そうと思ったからだ。
 喧嘩をしていても、私は翠を心底憎むことはできなかった。
 心の奥底で、やはり翠を好いている自分に気が付いた。

 そのときから、私は後悔の浜辺を彷徨っている。
 翠は、ただ単にオヤツを間違えただけなのだ。
 翠は、私の失恋のことは知らない。
 だから、翠の失恋発言に深い意味などなかったのだ。
 それなのに私は…。

 翠は悪くない。
 私が誰かを悪者にしたてて、自分の鬱憤をぶつけたかっただけなんだ。
 そう分かっていながら、素直になれない自分が居た。
 妹の翠ばかりが保護され甘やかされ、姉の私が蔑ろにされている。
 そんな思いが、私を依怙地にさせた。

 その夜、翠が私の部屋を訪ねてきて、泣きはらした顔で
「お姉ちゃん、本当に私が居ないほうが良いの?」
 と聞いた。
 私は、翠の目を見ずに
「お姉ちゃんなんて呼ばないで。あんたはもう妹じゃない。早く居なくなって」
 と突き放した。

 翠は涙声で
「わかった…。明日…、出ていく」
 そう言って、私の部屋を後にした。