「じゃあ、主役は御波くんと山渕さん。」

永原さんが碧岩くんにそう言って、碧岩くんが黒板に書く。

男子から野次が飛ぶ。

真哉は、興味無さげに居眠りの体勢に戻り、私も自分の思考の中へと戻った。

本当に付き合ってる二人が劇の恋人役を演じる。

中学、高校の演劇なら、普通のことだろう。

仲睦まじい、羨ましいほどお似合いのカップルが周りに推され、恥ずかしがりながら引き受ける。

それに比べて。。。

つまらそうに『別にいいけど』。

去年とか一昨年とかならお互い照れてたのかな。

永原さん、本当は真哉に断ってほしかったって思ったりしてたのかな。

この役を二人でできるってこと、実はすごい嬉しいってこと言ったら、もっと真哉の首絞めることになるのかな。

ふと気がつくと役決めは終わっていて、話は準備の班分けに移っていた。

黒板はまだ半分ほどしか消されておらず、消された側には『衣装』『台本』『セット』など、各班の名前が並んでいた。

そういえば、真哉の役には婚約者がいる。

その役は誰になったんだろう。

黒板の、まだ消されていない側を見ると、役名のところに婚約者の名前と、その下に役者の名前があった。

真哉の役の婚約者は、永原さんの役だった。