そのまま授業が始まったものの、私は上の空だった。

最初のモヤがかかったような記憶の中の真哉は、正直完全にマイナスな印象。

ぼちぼちと思い出せる言葉も、家族から聞いた話も。

小学一年生から三年生の夏休み直前まで、真哉にいろいろとあだ名で呼ばれて苦しんだ時期があった。

いじめってほど酷くはなかったけど、割とストレスを感じていたらしく、夜中に泣きながら起きたりすることがあったらしい。

それが原因で、私が真哉を彼氏として紹介したとき、お父さんはいきなり真哉の胸ぐらに掴みかかって、「貴様!またうちの娘を泣かせるつもりか!」と怒鳴った。

お母さんと私で止めなかったら、ビンタまでしそうな勢いだった。

「もう泣かせない」という約束でその場は収まったけど、あれがトラウマになって真哉は約束を守ろうと必死になってる。

たとえ、私への「好き」って気持ちが薄れても。

『貴様!またうちの娘を泣かせるつもりか!』

横から見たお父さんの顔は、これまで見たことないほど怒りに満ちていた。

初めて浮き出た状態の血管を見た。

間近で真正面から見たらと想像するだけで身震いがする。

そんな思いをさせてしまったからこそ、私が真哉の負担になっちゃだめなのに。

「山渕さん?」

そんな回想をしていたら、突然、誰かに名前を呼ばれた。

黒板のほうを見ると、永原さんが教壇に立ち、碧岩くんが黒板に向かってチョークを持っていた。

黒板には、白い文字で『文化祭』という字と共に色々な案が書き出されていた。

「主役の二人、御波くんと一緒にやってくれる?」

え?

もう一度黒板をよく見ると、某人気ドラマの再現という案が丸で囲ってある。

台本のアレンジとか、ドラマからセリフ拾ったりって、大変そう。

というかこのドラマ、一時間で再現できるの?

サイドストーリーはどうするの?

色々と疑問は浮かんだけど、話し合いを聞いていなかったなんてうっかりバラすわけには行かないので、言わないでおいた。

代わりに、真哉のほうを見た。

「どうする?」

寝ているのか起きているのかよくわからない感じの状態の真哉に問いかけてみた。

ダラッとしていた割にはしっかり話を聞いていたらしく、すぐに「別にいいけど」と答えた。

「じゃあ私もオッケーで。」