「今日、放課後どこ行こっか?」

授業中書ききれなかったノートを写す真哉に、デートの話を持ちかける。

真哉のノートに私の影が少しだけ、うっすらと落ちている。

「。。図書館でいいんじゃない?今日宿題多いし。」

隣に座っているのに顔も上げずに、ひたすら字を写しながら真哉が答えた。

本当にただ字を写しているだけで、恐らく内容は全く理解していない。

デートらしからぬ提案に内心いじけながら、本来私が聞きたかった類の提案をする。

「帰りに喫茶店寄って行っていい?」

「また?」

まるで嫌がってるような返事の仕方をした割には、声にハリがあるような気がした。

一生懸命字を書いてなかったら、呆れたような声で微笑んでいたかもしれないのに。

そんな優しい表情を見るチャンスを逃したと思うと、真哉が写しているノートが恨めしくなった。

自分が一生懸命録ったノートなのに。

私のノートと自分のノートを交互に見ながら行を埋めてく真哉の横顔を見ながら、私は左手で頬杖をついた。

いつ見ても、平均以上イケメン未満、としか思わない顔だけど、いつまで見てても飽きない。

好きになったのっていつだっけ?

ふとそんなことが頭をよぎったけど、遡る気はさらさらない。

遡っても、思い出せないことはどうやっても思い出せないから。

真哉は、いつから気持ちが冷め始めたのか、はっきり分かるのかな。

授業開始の合図のベルが鳴って、私は自分の思考から教室へ呼び戻された。

ガラガラと音がして、先生が入ってくる。

先生が教壇まで歩くところをぼーっと見ていたら、視界の右端でノートが机の上に乗せられるのが見えた。

横を見ると、真哉と目が合い、「ありがとう」と口を動かして、目を三日月型にしていた。

「終わった?」と声を出さずに訊いてみると、「あぁ」と「うん」が混ざったような返事が返ってきた。

「起立」と号令が掛かり、クラス全員が立ち上がった。