そう。

あのキスは、彼女側が諦めようと一度決心したことに直接繋がってる。

切ったり置き換えたりすると不自然になる。

私のわがままだけで外せるシーンじゃない。

「重要だけど、、ねぇ?」

一緒に台本係に立候補した友達何人かが私をチラッと見て、目を逸らした。

他何人かはその様子を見て唸っていて、あとはぼけーっとしている。

寝ている真哉のことは誰も見ていない。

「本人達に聞いたほうがいいでしょ」

不機嫌だとか不貞腐れてるとか思われたくないのに、言い方がどうしてもそう聞こえてしまう。

実際あまりいい気はしないし、指摘しておいて本人達に聞けなんて、露骨にも程がある。

それに「本人達」、片方部活でいないし、片方寝てるし。

なんだか微妙になってしまった空気に責任を感じ始めた時、碧岩くんが「あのさ」と声を上げた。

「観客からはキスしてるように見えるように立ち位置を工夫すればいいんじゃない?」

前のめりにサラッと言ったその一言で、真哉以外の台本係は全員、あっ、という顔になった。

それなら確かにシーンを置き換える必要はない。

「じゃあそうしよう。」

碧岩くんの隣に座っている子がそう宣言するように言い、周りもみんな頷いた。

そして、話し合いは元の、大事なシーンを書き出す作業に戻った。

真哉の方を見ると、こちらに顔を向けて前と変わらない体勢で寝続けていた。

今の会話、聞いていたらなんて言ってたかな。

私達のそのシーンの話に対してはいつも通りでも、永原さんと、って話には目が泳ぐんだろうな。

苛立ちのような、悲しみのようなものを感じながら真哉を見つめた。

いつも通りの愛おしい寝顔が、一瞬だけ憎く見えた。