ピピピピ、ピピピピ。
ピピピピ、ピ・・・。

昨日、鳥の鳴き声に変更したスマホのアラームが、部屋に鳴り響く。
今日の朝は、気が重い・・・。

怜の事が引きずっているというのもあるが、昨日ハルト達が、映画の後、どうなったかが気になっているのだ。

自分から断っておいたくせに、何今頃になって気にしている。

なんにも起きていないに決まっている。

なぜなら、ハルトは私の彼氏だから。

もしハルトが百香と変な事していたら、浮気罪と変態罪で逮捕してやる。


「お前、朝から何考えてんだよ」


おっと、危ない危ない。

もう少し早く気づかれていれば、怜の事もバレてしまう所だった。


「俺の事?」


「あー、ううん!なんでもない!」


ふるふると、犬のように否定した。


「今日、お前、なんか予定あんの?」


「え?あ、あぁ、ないよ?」


向こうから話を逸らした事に、神様と怜に感謝する。

ふーん、と、興味なさそうな顔をされた。

私は、飲みかけのスポーツドリンクを口にした。


「ハルトとのデートは?」


私はアニメと同じように、スポーツドリンクを勢い良く吹き出した。

・・・・・・なんてことは無く、無表情で遠くを見た。


「ハルトとのデートなんて・・・・・・ない、です」


「へぇー、リア充って、毎日毎日デートとかしてんのかと思った」


思いっ切り馬鹿にした視線と、変な口の尖らせ方・・・・・・。
なんてヤな奴。


「デートなんて、そんなにしないもんだよ。たまにするから楽しいの」


「自分への言い聞かせか? てか普通さ、漫画とかでは女子の方がデート誘う事多いけど、李依んとこのカップル、ハルトが誘ってくるの?」


「今んとこそうだね。 私から誘う事とかほとんどない」


自分で言って少しへこんでしまう自分が情けない。

自信がない。

ハルトに好かれてる自信ないんだもん・・・。


「お前から誘ってみればいいじゃん」


「いいよ、別にデートしてもしなくても、どっちでもいいもん」


意気地無し!
そういう怜の声が、次第に遠くなっているような気がした。


「予定ないなら、何すんの?」


「小説でも読もうかな。 今日一日あれば、三冊くらい読めるんじゃない?」


そう言い、本を手に取ろうとすると、スマホの着信音が鳴った。


【今日こそ暇?今、李依んちの近くだから家行ってもいい?】


い、今!?
寝ていた体勢から、座る姿勢になるみたいに飛び起きた。


【いいよ】


ついつい舞い上がって返事をしてしまった。
まあ、いいんだけど。

急いで部屋の片付けと、その他もろもろの準備をする。
ハルトが家に来るなんて久しぶりの事だ。百香と二人で来るなんて事は・・・・・・きっとないだろう。

せっかくの休日、彼氏との間に、部外者の女子が入る事は、普通に考えてしない。


それがたとえ、親友であったとしても。


そうだ。
百香は親友だし、とってもいい子なんだから。
人の彼氏を奪うなんて事、絶対にしないはず。


そこまで考えて、頬のあたりに、何かが流れてくるのが分かった。

涙だった。


ピーンポーン。


玄関のチャイムがなり、私は軽く服で涙を拭った。


「いらっしゃい、ハルト」


「おう、李依! この感じ、久しぶりだな」


そこには・・・ハルトだけがいた。

見た瞬間、何かが破裂したように、涙腺が緩んだ。
その後、壊れた蛇口みたいにどんどん涙が溢れ出てくる。

ヤバい・・・・・・。止められない・・・・・・。


「ちょ、李依、どうしたの!? えっと、と、とりあえず中入ろ! ね?」


本気で慌てているハルトを見ていると、何だか嬉しさと悔しさが半々で、余計に泣けた。


「今日は家に一人か?」


「・・・・・・」


こくりと頷いた。

当たり前じゃない・・・。
親にこんな姿、見せられない。
第一、家族がいる時は彼氏なんか、連れてこられない。

恥ずかしすぎる・・・・・・。


「・・・大丈夫? 落ち着いた?」


「・・・うん」


やっと涙が止まった・・・。
止まっただけで、まだ顔が腫れぼったい感がすごい・・・。

ハルトにも泣いたとこ見られたし。


「いきなり泣いちゃうからびっくりした。どうしたの?」


「・・・ううん、なんでも」


「言わねぇの? ハルトが浮気してるって事。 せっかくなんだから聞けよ」


ハルトとの会話に怜が入ってくる。
もちろんハルトは聞こえてないからいいんだけど。

ハルトが麦茶を飲んでいる隙に、私は素早く頷いた。

ハルトはきっと、浮気なんかしていない。
あんなにいい人で、とっても優しい人だ。


「それにしてもさぁ、俺ら、幼稚園の頃から、実は同じだったんだよなぁ。 なんか昔は関わりもなかったのに、今になって付き合ったりするのって、おかしいよな」


「確かにね。でも、付き合えて私は良かったと思うよ」


「そんなの俺もだよ。李依と付き合えて、ほんとに良かったって思ってる」


二人とも真剣な顔で向き合ってから、同時に吹き出した。

クスクス笑って、最後にはハルトが 「愛してるよ〜」 なんて言い出して、爆笑した。

怜はというと、ずっと不機嫌なままで、ときどき深いため息をついて私の頭をデコピンしたりしている。


何してんだ・・・・・・怜は・・・・・・。


「・・・・・・ふぅーっ、泣きからの笑いって結構辛いな」


笑い過ぎで、ハルトも私も目に涙を溜めていた。
私の場合、さっきの涙がまた出てきたって事なんだけどね。


「・・・・・・ん?なんかメール来た」


ハルトは、ケースのついていないスマホを取り、アプリを開いた。


「・・・・・・誰から?」


・・・・・・嫌な予感がする。


「あー・・・、ごめん、急用だって。う、うちの母さんから」


嘘つき・・・・・・。


「・・・・・・そっか。帰る、の?」


「おう・・・・・・わりぃな。また来るわ」


「うん・・・・・・」


ハルトは、飲みかけのお茶を一気飲みをして、私の部屋を出ていった。

私の部屋には、からっぽのグラスが光るだけだった。