「あら、李依起きるの早いじゃない」


リビングに向かう途中お母さんに声をかけられた。


「ハハ・・・・・・まあね」


そりゃあ朝早くから頭の中で人に叫ばれたら誰でも起きるよね・・・。


「あ、姉ちゃん、百香姉さんもう来てるよ」


「え、もう!?」


びっくりして玄関のドアを見ると、隙間からお団子頭がはみ出している。

私はさっき降りてきた階段をかけ登って、部屋に戻った。

寝癖が付いている髪を手ぐしと百均で買ったスプレーでストレートに直す。

ピョンピョン跳ねている髪を見て、怜が爆笑した。


「ブハッ! なんだよその髪型!」


腹部を抑えながら笑っている。
突っ込まないで欲しかった部分なので、さすがの私も目元が潤んだ。

無表情を作り、ヘアピンを手に取る。

前髪をとめる。

このヘアピンは、ハルトがクリスマスに買ってくれたお気に入りだ。

このヘアピンを付けて学校に行くと、ハルトは微笑んで頭を撫でてくれる事を私は知っている。

付けないで学校に行くと、頬を膨らませ、朝の内は拗ねる事も私は知っている。


「・・・・・・やっぱり、付けないで学校行こ」


ヘアピンを外し、アクセサリーケースにしまった。


「ほほー。 それでハルトを拗ねさせようとしてんの?お前性格悪っ」


ぐっ・・・・・・。


確かに拗ねさせようとしているのは事実かもしれない。
いや、事実だ。

しかし、怜のような毒舌野郎に言われると、ムッとしてしまう。


適当にノートと教科書、ペンケースを入れ、スクールバッグを掴んだ。


靴のかかとを踏みながら玄関を出ると、そこにはムスッとした百香の顔があった。10分も待たされたら怒るだろう。


「ちょっと、遅い。 あたしどんだけ待ったと思ってんのよ」


「ごめんごめん! ちょっと考え事してて・・・」


「・・・・・・もしかして、ハルトとなんかあったの?」


「あ、ううん! ハルトじゃなくて、怜の・・・・・・」


「怜? 誰それ」


「あっ! いや、何でもない!」


怪訝そうな顔をこちらに向けて、早足で歩き出した。
私も慌てて百香の隣に並ぶ。

危なかった・・・・・・。危うく怜の名前を口に出してしまい、自分自身に大きなダメージを与える。

怜はニヤけながら私を見ている。


「ふ〜ん。こいつが百香か。ハッ、もうちょっとでハルトってやつに会えるんだな」


会えて嬉しいのかは言わないけど、会ってみたいというのは本当だろう。

ハルトは男子でも惚れるようなイケメンだ。

プラス優男だし、強がりな所が可愛い。
ハルトが告白してきた時は、人生で1番びっくりした。

『あのさ、俺、成瀬さんの事好きだから付き合って欲しい』

あっさりと告白し、私をビビらせる程の圧力。
私では抵抗出来ないくらいだった。

『・・・・・・い、いよ』

考える前に口に出ていた。

『でも・・・・・・なんで私・・・・・・なの?』

その質問をした時、赤面をして、手で顔を覆った。





『・・・・・・可愛かったから』





そのハルトの言葉が、いつまでも忘れられなかった・・・。


「・・・・・・走って行こ」


私はそのまま百香の手を引っ張って、学校に走った。






・・・・・・ハルトに、‘ 好き ’って言ってもらうために・・・・・・。