約二十分外で待った頃、ついに時は来た。


「行ってくる」


ハルトの素っ気ない挨拶が、玄関越しに聞こえる。

この時が来てしまったのだ・・・・・・。

ハルトは、ドアを開けて、かなり不機嫌っぽい顔で出てきた。




「ハルト」




私は、前にハルトに呼ばれた呼び方をした。

心臓の音が、最大まで達している。
この音がハルトに聞かれたら終わりだ。


予想と全く同じ反応をハルトは見せる。


大きな瞳をさらに大きく見開いて、履いている途中の靴もそのままだ。


私はそんなハルトを見て、成長していないなぁー・・・・・・と、心から思う。


確か、私が告白されてオッケーした時と同じ顔だ。

彼氏と仲がややこしくなっている時に、自分から声をかけるなんて、過去の私では出来ない。

つまり、私はかなり成長しているという事。


「李依・・・・・・? なんでうちにいるんだよ・・・・・・しかもこんな朝早くに」


ハルトは私から視線を地面に落とした。

私は諦めずにハルトから視線を外さない。

何だか、そんなのプライドが許せない気がしたのだ。


「ハルトに、会いたいって、言ってる人が、いるの」


心臓の鼓動と同じで、いつもより句読点が多い事が、緊張を示した。

私の手から、すっかり冷たくなった汗がアスファルトの上に落ちる。




「は・・・・・・そんな・・・」




「ねぇ、その人と会ってみてくれない?」




驚くほどに速くなっている声は、ハルトの声を遮った。

ハルトは、難しい顔をして私を見る。
目つきがいつもの優しいハルトじゃない。
随分と悩んでいるようにもとらえられた。


「今・・・・・・じゃないよな?」


ハルトが考えに考えた答えはそれだった。

私は、不意に不安が心の隅の方から湧き上がるのを肌で感じた。

ここで怜に合わせたら、学校に間に合わなくなるかもしれない。

まだ小一時間くらいあるが、怜がハルトとどんな話をするのか分からない上に、どれ程の時間が必要なのかも分からない。

怜に聞いても、きっと教えてくれないだろうな・・・・・・。

さっきまであった自然な落ち着きが私から消えていく。



「今じゃ・・・なくてもいい、よ。 でも、今日の放課後は、その、空けておいてくれないかな」



今日は確かサッカー部はオフの日だったはずだ。
今週の月曜日から金曜日の中で休みは今日だけ。

絶対今日会わないとマズい。

なぜなら、もちろん怜が一週間以内に、と念を押し付けてくれたからだ。

理由は知らないけど、やっぱり怜の頼みを断るのは気が引ける。



「・・・・・・分かった」



「ホントに? あ、ありがとう・・・・・・。 それじゃ・・・・・・屋上。 屋上に来て」



屋上なら人が来る事は滅多にない。

普段鍵は空いていないが、何故か分からないけど空いている日はある。

私はその日を確実に分かっているので、屋上で話す事を選んだ。

教室や渡り廊下などの場所では、誰に見られるか分かんないし。


「うん・・・・・・ただ、俺、委員会があるから、ちょっとだけ遅くなるかもしれない」


「あ、うん! 全然、平気。 待ってる、ね」


私は最後弱く声に出した後、逃げ出すようにハルトのもとから離れた。



あー!


言えたーっ!



まさか本当にこんな状況の中で私から話しかけられると思っていなかった。

朝起きて、何となくいけるんじゃないかと思って行ったら、本当に話せるとは。


やっぱり私、成長したんだなぁ・・・・・・。


「俺が来てからお前成長してるんじゃねぇの?」


頭の中でいやらしい程ににやけている怜を見ても、何も感じないくらい私は舞い上がっていた。

ただ、ハルトが私に対してよそよそしくなっていた事は少し悲しいけど・・・・・・。

自販機の前でばったり会った時は、普通の会話をしていたと思う。

なのになぁー。