塾講師が、大きなホワイトボードに、ややこしい数式を書いていた。


「えーと、この問題を解くには、この前習った問題を覚えていれば・・・・・・」


私は、机とペンケースの間に挟まれた一枚の紙に目をやった。

‘ 二十五点 ’

あぁ、またこんな点を取ってしまった。
塾講師の声に混じって、息をゆっくりするような長いため息を吐く。

勉強不足になったのは、多分怜のせいだ。

もちろん私のせいなんだけど・・・・・・。

でも、勉強している時に邪魔してくるのは怜だったから。


「はい、じゃあこの辺で終わりにしましょう」


私は、塾講師の声と同時にバックを持つ。
既に眠気は頂点に達していた。

それに、ハルトと一緒に帰るような感じになるのが嫌なのだ。

小テストの結果を話し合っている塾生の間をすり抜けて、誰よりも早く塾を出た。

しかし、自転車の鍵をバックの中を探すも、イヤホンと絡まってなかなか出てこない。


「はっ、早く出て・・・・・・よ・・・!」


このままじゃハルトが塾から出てきちゃう・・・・・・。

そう思った時、重い扉が開く音がした。

やばい!

イヤホンと絡まっている鍵を自分でも驚く程のスピードで解いた。

私は自転車に乗り、たまに通る近道を選んだ。

人生で最速スピードだったかもしれない。
チラリと後ろを見ても、そこにハルトはいなかった。

他の塾生だったのだ。


「おい、ハルトから逃げてどうすんだよ。 会わせてくれるって話したよな?」


「も、もうちょっと待って! ちゃんと一週間以内には合わせてあげるから!」


私は正直、そんな事忘れていたが、怜は困ったような顔をした。

仕方ないじゃない。
これは私の人生で、重く言うと怜が私の人生を邪魔しているというだけだ。

どこの誰だか分からないようなやつに話を合わせる筋合いはないと思う。

そう思えば怜に怒られるだろう。

私は猛スピードで家まで走った。