「なぁなぁ、今度こそハルトと話したい」


人通りの少ない道を通って帰っていた時、怜は言った。

ぎくっとして、道のど真ん中で立ち止まる。


「じゃ、じゃあ、ハルトに会いたい理由を聞かせてくれたら行ってあげる」


「会いたいから」


私が頭をフル稼働させて聞いた質問に、三秒もかからない解答を答えやがった。

確かに解答っちゃ解答だけど・・・・・・。

でも、やっぱり私だってハルトに話しかけるという立場なわけで、ましてや怜の方が上の立場ではない。

そういう上から物事を言うのは本当に困る。


「理由言ったけど。 これで連れてってくれるんだよな?」


憎らしい嫌な顔をする怜を睨みつけた。

いやでも、怜ってあの頭痛が起きれば今の世界から抜け出せるのだ。

それが、ちょっと条件が違うというだけで自分から行動出来ないのはおかしな話だ。


「怜は動く事出来るでしょ。 わざわざ私の力借りる事ない・・・・・・気がするんだけど」


後半、自信をなくしかけてだんだんと声の音量が小さくなっていく。


「それが無理なんだよなー。 自力で向こうの世界に行こうとしても、なんか抜けられないっつーか? なんか分かんねぇけど、会いたいって思ってる人の近くに行くと、知らないうちにそっちにいるんだよ。 そこでイケメンな俺誕生ってわけ」


あ、それが言いたかっただけか。

私は真剣に話を聞いた事を少しだけ後悔する。


やっぱり怜の方から動くのは出来ないのだ。
私が行くしかないみたいだ。


しかし、今日の私には目にもくれていないようなハルトの顔を見ると、自信が無くなって何故か泣きそうになる。

だから、やっぱりハルトの件は延期したい。


「ダメだ。 一週間くらいの間で行かないとマズい」


言い方が不自然なのが気になったが、気づかれないようにスルーした。

一週間の間にまた仲を取り戻せるなんて到底思っていない。
むしろ悪化する気配しかない。

あの時私がハルトの手をいきなり掴んで「ごめんっ!!」と叫んだ後から、ハルトは私を無視・・・・・・とは言わないが、私と一緒にいる回数が減った。

いけなかっただろうか。

謝った事は、悪い事ではない・・・・・・だろう。


もしかして、親友さんに見られて、色々言われたとか・・・・・・?
あんな所で言わないで欲しかったとかだろうか。

もしそうだったら、しっかり本人の前で、目を見て言って欲しい。

やり直す事は出来なくても、何か償えるかもしれないのだ。


「ホントお前ハルトに何かしてないかなって事ばっかりだな。 お前が一方的に無視されてるって思ってるだけだろ? ハルトからしたら普通だって思ってるかもしれねぇじゃん」


それもその通りだ。

否定はしない。


だけど、「おはよう」の一言くらいくれても良くない!?

彼カノ関係なく、それは人間として最低のマナーだ。
せっかくクラスも同じだというのに、さすがに酷い・・・・・・と思う。

でも、挨拶しなかったのは私も同じだし、二人共遠慮しているって事だ。

それって、一番最悪で嫌な関係。


「あー、またハルトと遊んだり話したりしたいよぉー!」


静かな道に、私の後悔が混じった声がこだました。