大勢の女の子達が私の前を歩いていた。

一番先頭には百香。
そして一番後ろにこそこそとついて行っているのが私だ。


「カラオケ着いたよ〜! 男子達待ってるから早く行こ行こ〜!」


百香が後ろについて来ているみんなに言った。
私も、その後ろを歩く。




「おお〜!女子来たぞ!」


ちょうどドリンクバーで飲み物を入れていた男の子が、隣の広めの部屋にそう声をあげた。



「おー、待ってました」

「女子誰か入れてー!」

「男同士じゃむさ苦しいんだよ」



クラスでよく見かける男子が、ほとんど百香に言っていた。

私には目さえも合わせない。


そんな中で、はっきりと目がと合ったのが・・・・・・。


「ハルト・・・・・・」


さっそく曲を入れて歌っている百香と、それにキャーキャーと歓声をあげる男女の声で、私の弱々しい小さな声はかき消された。

私は視線をハルトから地面のタイルの模様に移した。

ハルトは、歓声も応援もせずに、私を見つめていた。


やっぱり、来なきゃ良かった・・・・・・。


「あれぇ〜? 李依、そんなとこで突っ立ってないでハルトの隣座りなよ〜。 ここで唯一のカップルなんだからさ!」


二番を歌い終えた百香が、私が固まっているのを見てそう言った。


「そうだよー」 「成瀬さん、ハルトのために座ってやって!」などと、クラスメイトからのからかいを受ける。


うっ・・・・・・そういうのホントに勘弁してぇー・・・・・・。


ハルトは、私から視線を外し、最後のサビを歌い始めた百香を見た。

そう、今は百香の事を見ていて・・・・・・!

私こういう場所で、どうしたらいいか分からなくなるから。


「李依ちゃん、座らないの?」


一番扉側に座っていた女の子が、私の腕を軽くとんとんと叩いて聞いてきた。


「あ、うん・・・・・・。 でもほら、座れる場所ないし・・・・・・」


「え? ハルトの隣空いてるよ?」


今度はその子の横にいた子まで私に言う。
だから、そこには座りたくないんだって!


「あ、ねぇ、この一人用の椅子使っていい? なんか気使っちゃうからさ」


今流行りの曲を全て歌い終わった百香は、汗をかきながら言う。

そして、壁の方に寄せられていたパイプ椅子に腰を下ろす。

百香の座っていた場所に百香の友達が。
その横に今度はクラスで目立ちたがり屋の男の子が。

と、横へ横へと、どんどん詰められていって、最終的にはハルトの隣ががら空きという状態になってしまった。

最悪だな・・・・・・。

私は、角の角に座って、ハルトに少しでも当たらないようにした。


ハルトが私をガン見している事が、見なくても分かる。


「さ、次は李依の番だよー! なんか入れて入れて」


私は回ってきたタッチパネルを受け取って、悩みながらも最近よく聴くみんなが知ってそうな曲を選んだ。


下手なのを隠して、私はキーをあげて歌う。

それを見越した怜が、


「下手だなお前」


と、本音を私にぶつけた。

その通りです・・・・・・。


「はい、じゃあ次ハルトね。 恋愛曲歌ってよ」


感想もなしに、私からハルトにタッチパネルを手渡す。


あー、怜、もう私やだー・・・・・・。


私がそう心の中で叫んでも、怜は無視するだけだ。


カラオケの後は、どうせならみんなでご飯行きたいという、百香の提案で、カラオケをしたメンバーでファミレスに行った。

私は邪魔にならないように、みんなが何か飲みたいと言ったら、私がドリンクバーまでみんなのドリンクを取ったり、注文をしたり。

ファミレスでは、ハルトに猛烈アタックをする女子が何人かいて、私はそれを遠くの席から見た。

ハルトは、頷いたり話を聞くだけで、いつものように自分から話しかける事はほとんどない。


「みんなー! もう八時半だし、そろそろ帰ろうぜぇ」


恋バナで盛り上がっていた百香が、隣の子のスマホの画面の時計を見て言った。

もうそんな時間だ。

私はバレないように吐息を床目掛けて吹きかける。
やっとこの地獄から解放される・・・・・・。


「李依〜!今日一緒に帰ろう!」


百香が眠そうな目を擦って私に言う。


「いいけど、他の子達と帰らなくてもいいの?」


「うん。 みんな方向違うから」


なんだ、そういう事・・・・・・。

ちょっと期待していた私がバカだった。

確かに他の子達は、大勢の男女連れで帰るようだ。
その中に、ハルトはいない。

もう先に帰っただろうか。
一緒に帰ろうと誘ってくれるかなどと、また期待している私にゲンコツを食らわせる。

でも、さすがに他の女の子と一緒に帰るというのは、へこむ。


「おーい、ぼーっとしてどうした? 早く帰ろうぜぇ」


「あ、ごめん! うん、帰ろ」


私は手元に置いてあったバックを持ち直して、百香の後ろをついて行った。


「みんなお先にぃ! また明日ねーっ!」


固まって喋っている大群に、百香が手を振ると、何人かが百香に手を振った。


「おう! また明日な!」


「李依ちゃんもまたね」


カラオケで何度か話をした子が、当たり前のように私に手を振った。

私も、驚きながら手を振る。
おどおどしていなかっただろうか・・・・・・。


こういう場所で出来る友達って、ああいう事なのかな?

‘ 友達 ’という存在をまともに知らない私は、今浮かれている。


百香は、それを毎日のように続けているのかぁ〜・・・・・・。

それって結構楽しいのかな。

私だって、たくさん友達欲しいし。

クラスの子は、友達も欲しいけど彼氏彼氏!って騒いでるけど、私はどちらかと言うと友達という関係の方が近くにいて欲しい。

あれ、怜って友達なのかな?
いや、ただの知り合い・・・・・・?



「・・・・・・ねぇ李依」



「はっ、はい!?」


立ち止まって私を真剣に見つめる百香に、私は飛び跳ねるくらいビビっている。


「今日楽しかった?」


「え?」


百香がそんなに真剣な表情で誰かを見るのは本当に久しぶりなせいで、素っ頓狂な声が出た。


「えっと、うん。 楽しかったよ。 まあ、あんまり歌とか・・・は、苦手だからそんなに歌わないけど、ほら。 みんなが楽しんでるところ見るの好きだし・・・・・・さ」




‘ 楽しかった ’




その一言で終わらせればいい言葉を、言い訳めいた返事を延々と話す。

しかも、楽しかったなんて全部ウソで、それを伝えてない。


やっぱり、私、百香を本当の親友だと思ってないのかな・・・・・・。


「そっかぁ! 良かった、楽しんでないのかなってずっと思ってたの! あたし誘わない方が良かったかなとか」


あ・・・・・・。

百香は気づいてたんだ。


心の奧の方で、モヤモヤと何かが湧き上がる感触を感じた。

これがきっと罪悪感というのだろう。