ハルトにあの時の事を聞かれてから二日。

なるべく話さないようにと、私はずっとハルトを避けた。
ハルトは時々私に話そうとしているみたいだが、こっちはそんなつもり一ミリもない。

元はと言えば私が悪い。

でも、私の性格が悪いせいで、私はついついハルトがあんな事聞いてこなければ・・・と思ってしまうのだ。

あまりにも情けない、と、私は持っていたシャーペンを強く握った。

力が強すぎたせいか、パキッと芯が折れた、甲高い音がする。


「・・・・・・あーもう・・・!」


カチカチと何回もてっぺんを押しても出ない。
振っても、シャー芯が上下する音は聞こえなかった。

苛々している自分にまた苛々して、私は妄想でペンケースごと怜に投げた。


「うわっ、気分悪っ」


まるで本当に当たったかのように、怜は手で頭を覆った。



ストレスを人にぶつけてはいけない。

相手に暴力を振ってはいけない。



昔から両親に言われていた事だ。
小さい時、私のストレスが頂点に達した時、私はリビングにあった皿を、壁に向かって思い切り投げつけた。

すると皿はガシャンと大袈裟に割れて、床に散らばった。

隣の部屋にいた母親が、その音を聞いてリビングに駆けつけた。

その時、私に言った言葉がそれだった。



『たとえ自分が苛々していても、それを人にぶつけてはダメよ。 暴力や、言葉の暴力は、相手をとても傷つけるのだから。 それがもし物だったとしても、絶対にぶつけてはいけない。 分かった?』



小さかった私は、うん、と素直に頷いたらしい。

母親は、全て言い切った後、割れた皿の片付けをしていた。

とてもその通りだ。
間違ってはいない。


しかし、今はそんな風に頷く事は出来ない。


じゃあもしも、私が自殺したいくらいにストレスが溜まっていても、放置しておけと言うの?

自分一人で悩んで、泣いて、それをずっと続けろって言うの?

たとえそれが人から見ればちょっとした悩みや、わがままだったら、それを誰かに話したりぶつけたりしちゃいけないって事?


私はそんな事、出来るわけがない。

自分がした事で後悔して、私が全部悪い事くらい分かってる。

なのに・・・・・・。


フローリングに、一滴の涙が落ちる瞬間を私はただ眺める事しか出来なかった。