「お前なぁ、まだハルトにそんな態度とってるわけ?」


せっかくベッドの上で一人ゆっくりとくつろいでいたのに。


「・・・・・・そうだよ。 怜には関係ない事よ」


そう、怜には関係ない事。

わざわざ怜に顔を突っ込まれる筋合いなんかない。


プスプスとご機嫌ななめの怜は、そのまま足をバタバタと宙に浮かせた。


「なぁ〜、暇だからさ、どっか行こうぜ」


いきなり目を開けたと思うと、さらりとしたいきなりの発言。

時計を見ると、昼の二時過ぎ。
今日は、先生の会議だとかなんだとかで、早めに帰る事が出来た。


「どっかってどこなの?」


「ハルトの家とか」


「バカなの?」


ついつい私は反応してすぐに返してしまう。
それにまたくすくすと笑う怜には、冷静になれなかった。


「なぁ、俺さ、ちょっと本気でハルトに会ってみてぇんだって。 頼む」


今度は、にやけもいじりもなく、真顔で言われた。
ハルトに会ったって、私が気まずいだけなんですけど。


「そこは許してくれ。 あいつの近くにいるだけでいいから」


念を押したような目力だった。
こんな事、前もあったような気がする。

いきなり幼稚園に行きたいなんて言われて、帰りすごく照れた事を、黒歴史なみの記憶で残っている。


「近くに行ってどうするの」


「会いに行くだけ。 どうせお前も暇なんだろ? 仲直りしたくないのか?」


暇だとしても、今ハルトに会いたいとは到底思えない。
むしろ、絶対に会いたくない。

向こうだって私なんかに会いたくないだろう。

それに、百香と一緒にいたりしたら嫌だし。


「お願い。 近く通るだけでもいい。 とにかく頼むって」


「・・・分かった」


そう言って、私は腰を浮かせた。

制服から、普段着に着替える。
家の近くを通るだけなら、そこまでこだわらなくてもいいだろう。

いつものデートで着たことがない服を腕に掛けた。

私はなんて怜に弱いんだろう。
それも、断れない性格のせいだ。


玄関に朝から出ていたスニーカーを、時間をかけて履く。

親にどこに行くの、と止められたが、適当に交わして玄関を出た


外は、春だとは思えないほど、熱気に包まれていた。
まだ五月にもなっていない今でも、こんなに暑いなんて、今年の夏はどれだけ暑いんだ。

まさに異常気象。

小鳥の鳴く声が、遠くで聞こえる。
しかし、この暑さではセミの鳴き声の方が合っている気がする。

私の家からハルトの家までは、徒歩で約十分程度。
私はいつもより二倍遅めのペースで歩き始める。

じりじりと炎が立つような熱さの歩道の、端の方を歩いた。


そういえば、ハルトは夏が好きだと言っていた。

百香と付き合っていた頃は、淀川の河川敷を歩いたとも言っていた。

河川敷の芝生の上で寝転がって、早く秋になってほしいよな、と、嬉しそうに言っていたと聞いた事がある。

今年は、私と一緒に過ごしてくれるだろうか。

いや、きっと無理だ。

少しでも楽しい夏を過ごすとなれば、私じゃなくて、百香と一緒にいた方が楽しいだろう。


熱中症になるような暑さか、少しの心細さかは分からないが、ひんやりとした冷たい汗が、額を通って顎からこぼれ落ちた。